第23話 逆巻く
竜神の
壊された神社の結界に驚き駆けつけていたところ、突然現れた禍々しい銀色の大樹が森を侵した。
それが崩れ、黒い灰となって消えていく。
【ま、さか…】
残ったのは、ぐちゃぐちゃの岩と砂まみれとなった森。
渦をまく風にまぎれた、黒灰と毒の残。
皮膚をあぶる熱風。
その破壊の真ん中に、ふらり、ふらりと立つ、異国の鬼。
その前で、小さな黒鬼が優しげな顔で笑っている。
【…あ、の、鬼ッツ!!!】
夜闇の黒肌に、底しれぬ力を秘めた赤い目。
陽炎のように波打つ黒髪からのぞく、黒の一本角。
たおやかな美しい少年の姿で、恐ろしい威圧を放つ鬼。
足元の大地は、鬼の発する赤熱に、黒く赤く染まり崩れていく。
黒鬼は優しげな微笑を浮かべながら、その黒い指先を銀髪の鬼の顔に近づける。
銀髪の鬼の髪が、服が、身体が燃え始める。
銀髪の鬼は、低い笑い声をたて、
『オレはねー、後悔なんてしていない』
『そんなことは、絶対に許さない』
神の子
救い主
なにを救う
もしも、自分が
いなければ
もしも
自分に力がなければ
罪もないヤツラが
死ぬことはなかった
許されない
許されない
許さない
絶対に
オレは、オレを許さない
黒鬼の指先が揺れ、銀髪の鬼の頭部が、金色の波光と共に弾かれた。
銀髪の鬼のからだが、刃で切られたように千々に裂かれた。
飛んだ黒い血が、灰となって消えていく。
『…行け』
黒鬼の身体が、動きを止めたまま震えている。
(破壊)
ああ
(破壊)
ああ
(破壊)
しあわせだ
黒朗の、膨れ上がる本性。
『このままでは、オレが、オマエを消してしまう』
(それは、都合が悪いだろう。)
『今のオマエでは、役不足だ。……堕ちた
銀髪の鬼は、片目が焼け爛れた顔を黒朗に向ける。
黒い指先から流れこむ、銀髪の鬼の記憶。
彼の存在のかけら。
『ラユシュ』
『その、予言者は』
『だれ、だ?』
『よ…げん…しゃ?』
銀髪の鬼の、ラユシュの脳裏によぎる記憶…
金色の王の横で
笑っていたのは、
(嗤っていたのは、)
金髪と金色の目の予言者――――
(青黒い髪と目と、黒い翼の)
コレ、は――――
『ああ、』
黒鬼は、天を仰いだ。
『止まれ、ない…』
歓喜に震えるその鬼の声は、悲痛に満ちている。
黒い空と火を吹く山々
黒い岩肌の大地
その間を流れる火の川
そこには、黒朗と同じものがいなかった。
他には何もなかった。
黒朗は歩いた。
大地の上に見つけた。
黒朗とちがう色をしている。
形をしている。
緑色の手足に、白くて青みがかったひらひらして、黄色い頭を持っていた。
黒朗よりも小さなそれをのぞき込む。
胸が熱くなった。
沸き上がる感情のままに、その奇妙なものに、そっと手を伸ばして触れてみた。
パッ、と
花は赤く黒い粒になり、風にのって消えてしまった。
黒朗が歩くと、美しい緑色の草原が、森が、赤と黒の欠片となって消えていく。
鳥も、動物も消えていく。
そして、感じる
身体の内から溢れる歓喜
これが、オレだ。
これが、オレなのだ。
このために生まれてきたのだ、と。
けれど、
けれど、と
黒朗は思うのだ。
消えてほしくない。
動くもの、色鮮やかなものは、黒朗の心を揺さぶる。
惹かれる。
相反する心
たとえ
理から外れていたとしても
『消したくない…』
ぽとり、白い花が降ってきた。
黄色い花も降ってきた。
青空に、花が舞っている。
爽やかな香りと晴雨と共に
花が降る。
黒髪と青い目の少女が、稲妻と共に降ってきた。
遠くに見える白竜。
水色の鱗を輝かせ、水色の輝く剣を振りかざす。
黒鬼のまとう壊滅の力に、弾け飛ぶ稲妻
赤く燃え溶ける水の鱗
剣が、黒朗の口に突き刺さる。
剣からこぼれ落ちる、ひと雫…
ごぼッ
溢れ
こぼれた
黒朗の体内から激流が噴き出す。
(これは…)
爽やかな
甘い香り
神を
しずめ
「くッ…ろぅ…!」
魔を
しずめる
「全部飲めええええええええええええ!!!」
人の子の
感謝と
祈りの
花酒
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