第89話 むき出しのプライバシー 3
(森川氏の弁・続)
ではなぜ君は、かかる孤独をいとわぬ筋金入りまくった個人主義者、一応断っておくがこれは利己主義、エゴイスト、まして今時言われるジコチューとやらとは似て非なる物であることは申すまでもないとは思うが予め断っておくとして、そのような人物形成が貴君においてなされたかを、私なりに分析してみました。
まあ怒らず、聞いて下さい。
米河清治君は、御両親が満年齢2歳の年に離婚され、その後、お二人は今生で一切お会いしておらんと聞く。
父方と母方にはそれぞれ親族がおいでじゃが、結局、父方に引き取られたのが運の尽きのようなところもあったのか、養子として籍を移された祖父母が相次いで今の君くらいの年で亡くなられた。
それで君は実質天涯孤独の身になって、私の創設した養護施設よつ葉園に預けられた。幸い、父方の叔父なる人物がおられたから、ある程度の年齢で救われた形になったが、君はいつか言っておったろう、かなり激しい論調で。
「人を社会的『かたわ』状況に追い込んだ岡山県は、断じて許さん!」
今時の人が「かたわ」なんて言葉をなぁ、先だっても「馬鹿でもチョンでも」などという言葉をお使いになろうと思えばできるお方ですから(苦笑)、そこはまあよろしいわ。
そこで気を利かせたような人間がぽっと沸いて出て、それがまあよつ葉園の職員であるかどうかは問わないが、やれ家庭が素晴らしいのわが子がかわいいの、さらには結婚すれば寂しさが紛れるだの、子どもが生まれれば癒されるだの、そんな並にも至らんアドバイスをしてみたり。
少し気が利くことを言われ出すかと思えば、「怒りの対象から外すべきである」などと仰せの方もおられたようじゃが、そんな程度のものさえも、貴君にはクソの役にも立たん戯言に過ぎまい。
まあ、後者についてはそこまで言われておらんようじゃが、家族云々を絡めた人間らのことを、今時のネット言葉でなんかあるらしいな、左巻きを称したいわゆるパヨクにつながった先の「偏差値28号」かね(爆笑)、まあよろしいわ。
あんたもしかし、悪態というか罵倒語というか、そういう言葉は超一流じゃ。
わしらの時代でいえばそれこそ、東京以下全帝国大学生の中でもダントツトップの天皇陛下御臨席の上での恩賜の銀時計確定レベルじゃ(大爆笑)。
~ そんなことで恩賜の銀時計をいただきましても・・・(米河氏。爆笑含)。
まあ、銀時計はともあれ、そこに至った経緯の話に戻そう。
貴君の現在の食生活、いや、酒生活と申し変えるべきか(爆笑)、まったく家庭というものの感覚がうかがえんが、一言で申すなら、君の酒と食は、戦闘食の延長下にあると言えよう。常在戦場。南方でも大陸でもなく、日本国内じゃがの。武器は一切持たぬが、ああそうか、パソコンが武器じゃった。すまんすまん(爆笑)。
ともあれそうなったのは、母方のほうでの影響の正反対、父方のほうの考えがベースとして基盤となっていることは間違いないと思われる。
君の御尊父は、母上の作る料理を不味いとか何とか仰せだったそうじゃのう。
そこまで言うなら、わしは自分で何とかするから子どもだけ食べさせておけばよいと言って何なりすればよさそうなものじゃが、そういうことはされなんだ。
無論、どこかのラーメン屋で金をたたきつけてこんなまずいもん食えるかと店を飛び出して見せるようなことについては、まあ、社会性の範囲内であろうと思われるから、よろしいわ、この際。
じゃが、家庭の論理というか、そういうものとは無縁の御尊父の方につけられてしもうたのが、君の人生を確実に決定づけたと言えるのではないか。
そのような基盤ができた貴君は、小学校入学を前によつ葉園に来た。
そりゃあ、周りの子らが幼稚に見えて仕方なかったろう。
大槻君の息子さんら以上に年齢以上の成熟を見せていた君には、そんな環境をあてがった者共に対する容赦などは、望めんわな。
君は6歳にしてすでに、相当な社会性を身に着けておられた。
それは、父方と母方の間を生き抜いていく上で見についたもの。
ある意味、高度に過ぎる程の政治性を持つレベルのものであった。
大人ではなく、子ども、それも幼少期であったからこそ身についたものじゃ。
そんな子には、そりゃ、プライバシーに相当するものは必要じゃわい。
群れさせて何とかしようとしたよつ葉園は、君に完膚なきまで叩きのめされて総括されても、仕方ないであろう。
(続く)
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