第88話 むき出しのプライバシー 2

「事実関係の適示かと言われれば、確かに、違うわな。強いるまでもなく言えば、あなたの怒りの表明と申そうか」

「自分で言っておいて申すのも難ですが、そうですね、確かに(苦笑)」

「私は、貴君の弁を聞いておって、別に腹は立たぬし、かと言って、いい気持がするわけでもない。別に悲しくも寂しくもないし、かと言って嬉しくもない」

「ニュートラルというわけでしょうか?」

「まあ、そのとおり。しかし、ひとつだけ言えることがある」

「そこを是非、御指摘お願いいたします」

 森川氏は、淡々と所見を述べ始めた。


 今先ほど貴君が述べた内容について、私が価値判断を述べて生意気を述べることはせぬ。ただ一言私からあなたに言えるのは、

「良くも悪くも、それが米河清治の今のすべてを形成している「核」である。」

以上。それ以上でも以下でもない。

 そのような心境に君がなぜ至ったのか。

 昭和50年代の日本の児童福祉、それも岡山県という範囲内において述べることであるが、あなたは、その当時の児童福祉の良くも悪くもを肌身で経験された。

 その総括が今の弁であると、私は思料しております。


プライバシーのない環境


 私にとっては残念ながら、その通りだったと言えましょう。

 まあ、私の感想など、貴君にはどうでもよろしかろうが。

 よつ葉園の卒園生諸君の中には、集団生活のよさや楽しさを書いておられる方もおいでであることは知っておる。じゃが、君にはそんなものは寝言でしかない。そんなところでしょうな。

 その場限りのテキトーな対応で、未来を考えさせないで、目先のことに目を向けさせて過ごさせる。出来損ないの仲間ごっこ、家庭という名を冒用・濫用する児童指導員、そういう者らを、貴君は生涯許すことなどないでしょう。

 私の口から、許してやれということはありません。

 それを述べたが最後、君は私を不倶戴天の敵とみなされよう。

 じゃが、私としては、貴君の対手として、その総元締のような立ち位置にいる以上、ある程度は後輩諸君らを弁護もせねばならない。


 そうじゃのう、家制度のようなものを持ち出して分かった口を利いてきたとかいうその尾沢君とやらを、特に君は許しておらん。

 その怒りを、君は確かにこのところ表明しておいでじゃ。

 当時の彼には、君が述べるようなプライバシーの概念などなかったろう。

 それはもう、仕方ない。もう済んだことではあろう。

 もっとも、君に言わせれば、まだ戦後は終わっておらんのかもしれんが。


 なぜ、群れさせることに当時の職員、わしも含めて、血道をあげておったか。

 まあ、時代がそうであったということもあるにはある。これは言い訳にもならんでしょうけど、そこは無視できんところでしょう。

 無秩序にはできぬし、かと言って自立性に任せられる人物もいない。また、その方向に導ける職員もいない。

 そうなれば、ある程度群れさせて、正直私にはこの言葉は好きになれぬが、そうしてでもやっていかなければならん。

 考えてみれば、職員、特にうら若き保母らにとっても、あの環境は大変だったろうな。これは何も、君やZ氏に不信感を持たれた保母らをかばうつもりはないが、彼女らにとっても、実にプライバシーのない、むき出しの環境であった。

 そこはどうか、貴君においても意識いただければありがたいが、のう。


・・・ ・・・ ・・・・・・・


https://kakuyomu.jp/works/16816927861110029880/episodes/16817330662424928082

↑ 第380話 ルサンチマンの正体に迫る


 話がだんだんこういう方向になってきました。

 苦しいが、頑張って書いて参ります。

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