第70話 固定権利(義務)と流動権利(義務)
あとはもう、資産と負債の流動性に応じて振分けるように、権利と義務をそれぞれ借方に権利、貸方に義務として振分けていけばよいでしょう。
まず、国民の三大権利。
勤労、教育、それに参政権は、すべて借方です。
本来の貸借対照表は流動資産の下に固定資産を並べますので、こちらもそれに倣うといいでしょう。
次に、三大義務。
勤労、教育を受けさせる義務、それに納税。これらが固定債務です。
資産と負債の固定か流動かは、1年以内に現金化可能か否かがメルクマールとして見られますが、こちらは、そういう時間の問題ではなく、あくまでも、憲法レベルで規定されているかどうかで、権利義務の固定性の基準として扱います。
次に、固定性の高い権利義務。
まず自由権ですね。これらはすべて、権利ですから当然借方に列挙されます。
そうそう、公共の福祉という概念がありますね。
そのままこの貸借対照表に掲載するのはどうかなと考えておりましたが、やはりここは、自由権に対応するものとして、貸方、つまり義務の欄に掲載すべきものではないかと考えます。
以上は憲法レベルでの論議ですが、法律以下のレベルにつきましても、これは固定性の高いものとしてそれぞれ意識されるべきものでしょう。
法的に決められたものはその程度の問題こそあれ、基本的には固定性の高いものとして扱います。
流動的な権利義務というのは、個々の事例において法律以下のレベルで問題となるものを列挙します。
そこに個々の具体例を当てはめていけば、よいような形ですね。
例えば、私がよつ葉園職員として、園長森川一郎さんより給与をいただくことで実演してみましょう。
私の貸借対照表上では、借方の流動権利の欄に給与債権が発生しています。
それと同時に、流動義務欄では役務の提供が貸方の流動義務欄に発生している。
逆に、森川さんのほうではどうか。
借方には、役務の提供というか、その受領義務のようなもので御理解を。
貸方には当然、職員米河への給与支払義務があるわけですね。
ざっくりと説明してみました。
こんな感じですね。
おいかがでしょうか。
・・・・・・・ ・・・・・ ・
「なるほど、結構わかりやすい構図ですな」
「そうですか。それならよかった」
「そこに当てはめていけば、いろいろなことが見えて来るじゃろう。最後の給与債権と役務の提供の例えじゃが、個人事業主というか、使用者と労働者という位置取りの関係性にある者同士においても、この権利義務の貸借対照表は、十分機能しておるのう。まあ、その例えでは対立軸と言えんこともない関係でもあるからな」
「そうですね」
夜は少しずつ明けはじめている。
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