第66話 興味深い相関関係
なるほど、貴君の複式簿記の原理を応用した社会性と人間性の相関関係、興味深い話であるだけでなく、さまざまな場面で応用の利きそうなツールとなり得るように思われてならない。
例えば、こんなケースではどうか。
高校生の入所児童の君が、園長の私の財布から1万円をこっそり取った。
そして君は、それを遊びにに使ったとしよう。
わしが園長の頃の1万円ではリアリティが少しなさすぎるから、まあ、君が50歳を超えた今時の貨幣価値の1万円とする。それなら十分リアリティもあろう。
そりゃあ、派手に誰かと遊んでというなら、わしらの頃のほうが同じ1万円でも使い出があって、ある意味リアリティがあるかもしれんけどな(苦笑)。
まあよろしい。
君は、かくして1万円を儲けたわけじゃ。そういうことで行こう。
米河清治君個人の貸借対照表は、資産が増えた。これはまあ、売上とはお世辞にも言えんが、雑収入という点では、そう言えるかもしれんね(苦笑)。
さあこれを、貴君の社会性と人間性のバランスシートにはめてみるかね。
確かに君は1万円を「ゲット」したね。
借方には確かにそれは表して、よかろう。
じゃが、わしの考えでは、それと同時に経費の欄に、「利息」か何か、名目は何でもよろしいが、これよりばれて弁償するまでの「つけ」がいずれ出てこよう。
当然、負債欄、というより人間性の貸方には、さっきの1万円の他に、利息も記載されるわな。
それだけか?
簿外債務という点においても、まあ、のれんみたいなものじゃな、信用と言ってもよろしかろう。それもまた、その貸借対照表には出んかもしれんが、このコソ泥野郎ということで、言うなら「逆のれん」が現れるわな。
わしだって、そう何度も金を盗まれてやるほど、ボケてはおらんわ(爆笑)。
ってことに、なりましょうが。
ちょっと君を悪者のたとえに使わせてもらって申し訳ないが、こういう事例も当然ながら、貴君の論から導き出せやせんかな?
・・・・・・・ ・・・・・ ・
「それは当然、私も認識していたところの事例ですよ。私が悪ガキのコソ泥というのは面白おかしくということでいちいち気にしませんけど(苦笑)、同じような事例は、いくらもありましょう。目先得したようだけど、実は大損という」
「そうじゃのう。君もそのことにもう少し若いうちに気付けておれば、もっとましな人生も歩めたであろうものを」
「いや、それはもう、ほっといてくださいとはとても言えません。実に、痛感することこの上なしです、今となっては・・・」
・・・・・・・ ・・・・・ ・
夜もかなり明けた模様。
「今日はしかし、貴君の独演会になってしまったが、実に興味深い話が聞けた。大いに感謝します。折角じゃ。この話は、また来週日曜の朝に続行したいと思う。君さえよければの話ではあるが」
「願ってもないことです。私もさらに私論を熟考の上、述べさせていただきます」
「その前に、わしも言いたいことがあるから、言わせてもらいたい」
「もちろんそれも、大歓迎です。じっと耐えて、ひと暴れしますよ」
かくして、この日の論戦は終了。
次回は、7月23日(日)の未明と決定。
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