複式簿記の原理の応用
第62話 社会性は借方=資産、人間性は貸方=負債・資本
2023年7月16日・日曜日の未明。
予定通り、論争は開始された。
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「森川先生、おはようございます。実は私、世紀の大発見をしました」
のっけから、米河氏は淡々としかし驚くようなことを述べ始める。
「ほう、世紀の大派遣とは何ぞや。教育勅語でも普及されるのか?」
「いえいえ、そんなことしても仕方ないでしょう、今時」
「そうかな。私が生きておって、それこそ、君が生まれた頃よりはまだ普及できる余地が生まれてきたようにも思うが、気のせいかな?」
「ええ、気のせいですよ。私が申上げたいのは、そんなことではありません」
少し間をおいて、米河氏は答えた。
「かねて私どもの論争の論点となっております、社会性と人間性の関係において、ワタクシは、世紀の大発見をしたのです」
「ほう、わしの猿真似みたいなことを言い出すなと思っておったが、内容的にはどうも猿真似ではなさそうじゃな。かと言って、創造というよりはどのみち模倣の域を出ぬもののような気もせんではないが」
「模倣上等ですよ。確かに、あるものとあるものの組合せによって気付いたものに過ぎませんから、森川さんの御指摘は間違いとは申せません」
「そうかな、それはどういう発見なのか、ご説明願おう」
「わかりました」
いささか興奮気味な気持ちを抑え、米河氏はその「発明品」の効能書を述べる。
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先日より兼ねて、社会性と人間性のそれぞれの特性と関連について論議が継続しておりますが、ワタクシは、その関係性はまさに、複式簿記の借方と貸方、すなわちこれは、資産の欄と負債及び資本、今は資本は純資産と申しますが、ここはあえて資本という言葉を用いますが、ともあれともあれ、この複式簿記の関係性はまさに、社会性と人間性の関係と同一の要素が見て取れることに気付いたのです。
申すまでもなく、複式簿記というのは商人の間で開発されてきた技術です。
一方、社会性とか人間性というのは、複式簿記が扱うような数字や項目の問題ではありませんよね。その相違点を超越して、この両者には、明らかな共通点があることに気付かされました。社会性や人間性というのは、確かに数値・数量化できるものではないでしょうし、それが適当かという疑問も出てくるでしょう。
しかしながら、この両者はやはり、資産と負債・資本の関係と同じような両面性のあるファクターであります。私は、そのことに気付かされました。
それがプラス方向のものであれマイナス方向のものであれ、この複式簿記の構図を用いれば、社会性と人間性の相関関係をすべて説明できます。
では、その基本として、社会性と人間性をどのように複式構図にするかを説明しましょう。
複式簿記では、御存じの通り、借方には資産や経費、貸方には負債と資本、それに売上が充てられることになっております。その基本は、貸借対照表です。
そこから経費と売上を独立させて要はどれだけ儲かったか損したかを見るのは、損益計算書の世界ですね。
貸借対照表と損益計算書。私のようなどんなしょぼい零細自営業者でも、確定申告では必要にされる文書の一つです。
それはともあれ、社会性と人間性というものを複式簿記の構図に乗せると、どのようになるか。以下、私論を述べさせていただきましょう。
基本は、社会性を借方に、人間性を貸方に設定します。
要するに、資産は社会性と扱い、負債と資本を人間性と扱うわけです。
それぞれに充てたのは、これまでの論争をもとに考慮した結果です。
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「それはまた米河君、意外な視点からの見方ですな」
森川氏は、幾分びっくりしながら尋ねる。
「私もまさか、こんなことに気付くとは思っていませんでした」
「面白そうであるから、貴君におかれては、引続き解説を願います」
少し間をおいて、米河氏は自身の気付いたものの解説を始めた。
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