第61話 アウフヘーベンの位置 5
「これ以上やり合うとお互い行き詰りかねない。ついては、しばし時間を開けて再度やり合うことにいたすが妥当と思われるが、貴君の意見やいかに」
「同感であります。正直、アウフヘーベンの位置と意識して論じてきたつもりではありますが、そもそも、何をもってアウフヘーベンの材料とするのかがあいまいなまま突っ走っているような気にもなって参りました。そこに来て、低次元の迎合などと言い出せば、これはちょっとまずいかなという気にもなりましたよ」
森川氏は、若者の危機管理にいささか感心している模様。
「そうかな。貴君の論をそのまま煮込んでいけば、間違いなく論争が荒れる。そうなるともはや論争ではなくして、罵倒合戦にもなりかねんな」
「ええ、おっしゃる通りです。卵か鶏か、まあその、鶏卵論争と銘打ってみましたけど、何のことはなさそうですね。私以外の人も、この論争をそのように述べておられる方がいらっしゃるようですから(苦笑)」
「そんな言葉の問題でもないでしょうが(苦笑)。まあよろしい。次回を期して今述べておきたいことはおありかな?」
「ええ。ひとつお尋ね申上げます。この鶏卵論争ですが、森川さんは、無駄な論争であるとお考えですか?」
「そうも思わんが、貴君はどうか。無駄であるなしに拘らず、その根拠は何かな?」
「無駄ではないと考えます。まず、ある論点、あるいはある事象におけるその時点の評価としてであれば、鶏卵論争は十分意味を持ちえます。しかしながら、その根本たる原因を探るとき、それは確かに、無益化するものではないかと思料しました」
「無益化、かね。その鶏卵論争が無益化するのは、なぜか」
「根本の原因を論ずれば、おのずと、その因果関係は明白となります。そうなれば、そんな議論は不毛に帰すものであると、そのような趣旨で申上げました」
森川氏は、少し間をおいて尋ねる。
「さすれば貴君は、鶏卵論争を無益化するだけの根本的な論議が必要であると、そのような趣旨で御述べになったとみてよろしいか?」
「はい。そのとおりです。しかしながらこれは、個々の局面、各論を論じている限りは鶏卵論争をきちんとこなしておいた、その上での無益化であります」
「それでは貴君の弁をトレースして考えるなら、鶏卵論争を必要とする個々の事例を正反相合せつつ、さらなるジンテーゼを模索していくことが論争の理想的経路であるとの御見解をお持ちということで、よろしいか」
米河氏は、少し間をおいて答えた。
「申し訳ありませんでした。そこまで意識できておりませんでした。しかしながら、今少し間をおいて整理しましたら、確かに、森川さんの先程御指摘の通りのことであると思料いたします」
夜はかなり明けてきた。
「それでは、君もそろそろプリキュアに向けての準備が必要であろう。では、この続きを来週日曜、16日未明にいたしませんか」
森川氏の提案を、米河氏はあっさりと受託した。
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