第53話 人間性の高低 2
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それでは、私も貴君の説に大いに物言いをつけさせていただこう。
お粗末な人間性を底上げするためには、高い人間性よりもむしろ社会性というものが適しているとの御指摘について、お答えする。
その点については、全面的にではないが、同意します。
何じゃね、君も小学生の頃に理科などで学んだであろう、磁石で例えよう。
磁石には御存知の通り、NSの両極がありますな。
その両極、例えばN極を人間性とすれば、社会性はS極となる。
さてここに、弱い、君流にいえば「ショボい」磁石があるとしよう。
磁力の弱いその磁石を回収するには、それより強い磁石がいる。
手で取れよとか、取ったらゴミ箱とか、分別せいとか、そんな話は今はなしじゃ。
とにかく、磁石で磁石を回収する。
毒を以て毒を制するみたいじゃけどな(苦笑)。
さあ、米河君の論で行けばどうなるか。君にお答えいただく必要はない。
目の前のショボい磁石は、N極を上にして転がっておる。
これを強い磁力の磁石で回収するには、S極を出した方が早いじゃろう。
無論、強力な磁力があるならば、N極で出しても、相手のショボいのはといえば、ころりとひっくり返ってくっついてしまうかもしれん。じゃが、しばらく逃げるような姿勢になる可能性は大いにあるでしょう。
こうしてみれば明らかではなかろうかな。
人間性を底上げするには、社会性のほうがより適している。
実はその逆も、また真なり。物事の逆は必ずしも真にはならぬが、これは確実に真となる事案である事は言うまでもなかろう。
これを、本題に代入してみます。いいですね。
社会性を底上げするには、人間性を引出すことがより適しているのではないか。
無論、そのショボい磁石に磁力をつけていくことで両方を強めていくことは可能であろう。とはいえ、その前提としての強力な磁石に磁力をもらうには、まずは偉大なもの、立派なものに引立てられんといかんのではないか?
いささか禅問答が背景に見え隠れしたような例えになったが、貴君の弁をわかりやすく例えるなら、こういうことではなかろうか。
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森川氏の例示に対し、米河氏は答える。
「それは、確かにわかりやすい例えですね。私にはそんな例え、思いもつきませんでしたよ。しかも、その磁石が人間同士の関係にまで話を進める起爆剤になるなんてところまでは、お聞きしていてまったく気づきませんでした」
「そうかな。君のような理論に強い者は、逆に、さらに強い理論に弱いときておる。大洋ホエールズ時代の三原脩監督が、西鉄時代とは打って変わった手法をとられたとのことじゃが、大学出の多い大洋では、高卒選手の多い西鉄のようにいかないことを始めからわかって、それに応じた手法をとられたというぞ」
「私が理論に強い者であるかどうかはさておきまして、ええ、ここで、ワタクシは理論に強い、理論一筋イノチですとでもいえばお笑いになるでしょうが(爆笑)、森川さん御指摘の構図は、よく理解できます」
「いや、貴君は明らかに、大宮哲郎さんよりも理論に強いというか、それに寄りかかる形で論を展開する傾向が見られる。能力的には彼の方が上の部分も多いが、論理という点においては、君の筋のほうがきついのう(苦笑)。もう一つ申せば、君は前々より対立軸を基準に物を見る傾向もある。理論に強い者の典型的な手法ではないか」
「は、はあ。そこで森川さんは、傾向と対策を練られたってことですね。なんか、大学受験の過去問集みたいですが(爆笑)」
「まあな。しかし、ここでかねて貴君が意識しておいでの小室直樹氏の論がどうの、やれアノミーがどうのと、そんなところでやり合うよりもむしろ、こういう例えを上手く使って話した方が、公開である以上、皆様により分かりやすいことであろう。貴君も少しは、そういう例えもうまく用いられたがよかろう」
「そうですね。努力します(汗汗)」
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まだ夜は明けない。
今度は、米河氏が例示を受けて論を展開することに。
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