第52話 人間性の高低 1

 そして、翌7月3日の朝未明。


「米河君、昨日はどうされた。久々に歌いまくって来られたようじゃな」

「ええ。カラオケスナックでなしに、西川の野外ライブでした」

「そうかな。なんか、わしらの時代にもあったようなイベントじゃのう」

「そうですね。みんなで歌いましょうなんて、なかなか今どき」

「それで、早めに帰ってまた酒飲んで寝よったら世話ないわな」

「そりゃあもう、いつものことです。大谷選手を見習いまして」

「寝る時間、すなわち量を増やせばよいということかね、それ」

「はい。何だかんだで質より量。さすがに、デタラメでも多ければとは」

「そういう極論はともあれ、そりゃあ、寝るか、寝られずとも横に、な」

「そうです。そここそ、大いに心がけておるところであります」

「ならば、貴君の頭も少しは、否、大いにスッキリされたことであろう」

「はい。心地よい疲れもありますよ。早速ですが参りましょう」

「では、貴君の人間性についての所感をまず語られたい。お願いします」


 かくして、米河氏の人間性についての持論を披露することに。


・・・・・・・・ ・・・・・ ・・・・・・・・ ・・・・・ ・


 それでは、森川先生の御要請を受けまして、ワタクシのかねての人間性というものに対する持論を申し上げます。


 人間性の定義を言えと言われましても、どうも、社会性以上にスキっと、ハイこういうものです、以上、とはいかないものですので、その周辺から、少しずつ述べていくことで対応させていただきます。


~ まあ、なまじ定義をしてしまうと、話が不自然に狭まるであろうから、それでよろしいのではないかな。~と、森川氏。


 ありがとうございます。

 まずこの人間性というものの、社会性との位置取りの一例を挙げてみます。

 人間性というものをどう定義するのであれ、ある程度誰でも一定こんなものであるというものはあるはずです。

 言葉としてはあまり好きになれないところではあるが、

「人間として、自他ともによい状態」

というものを、さしあたり仮の定義といたします。

 しかしこれはあいまいで、他者に対してある者がおまえの人間性は良いの悪いのと述べるのはいささか傲慢と言いますか、人の領域に土足で入る行為に思われますね。

 それはなぜか。

 人間性というものは、社会性と異なり、他者に対して可視性が必ずしもないから。

 それに尽きると思料します。

 ですから、このような事態も起こり得ようものですね。

 ここで、ある弁をテキストにします。


「学歴がなくても、人間としてよければ、それでいいではないか」


 よつ葉園の職員には、このような論法で人間という言葉を使う方が少なからずおられました。個々の事例における話者のその発言内容やその前後の状況をいちいち述べていけばキリがありませんし、第一、個々の職員やその上席となる方、元園長の森川さんも含めさせていただきますが、そのような方々の責任を追及したり、ましてそれに対して賞賛や罵倒、ましてまして、無能や低能であると難詰しても、何の生産性ももたらさないでしょう。


 しかしながら、仮にそれが私によって「無能」呼ばわりされるような内容であったとしましても、そのテキストで語られる「人間としてよければ」という部分を、かねてのテーマである「人間性」という言葉を代入して周辺を多少なり改編したとしましても、これはおおむね同じ趣旨のテキストとして成立します。

 それだけではない。

 さらにそれがいかにレベルの低い、お粗末な内容であったとしても、そこで語られているものは確かに、「人間性」という言葉で語るに足るものとはなっている。


 さすれば、人間性なんてものはテキトーな言い訳、テメエらの無作為の追求逃れのようなものに使うことも可能な、それこそ、ゴミのような言葉にもなり下げられるほどの地点に行きつく要素さえ、持っておるのです。

 それを止めるのは、確かに、「社会性」というものです。無論、もっと高いと言ってもいい「人間性」で止めることも可能だろうが、即効性のあるのはやはり、ここは社会性のほうではないかと、私は思う次第です。


 続きはありますが、ひとまずここまでの論点で森川さんの御見解をお願いします。

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