第54話 人間性の高低 3

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 先程の森川先生御指摘の例でありますが、ある意味、北風と太陽と言いますか、それと相通じるものがあるように思われます。

 旅人のコートを脱がすには、北風と太陽のどちらが?

 北風は、ひたすら吹きすさび、対手の外套を吹き飛ばすことで脱がそうとする。

 しかし対手は、ひたすらじっと耐えて、外套を飛ばされまいとする。

 それこそ、かつての軍歌の「死なばもろとも」ならぬ「飛ばされるならもろとも」の状態になるわけですね。正に、同極同士をあててショボい磁石を回収しようとする行為と、基本的には同じかと。

 一方太陽はどうか。こちらはひたすら対手を照らし、温める。

 何なら、摂氏40度に近い暑さを与えてもいいだろうが、そこまでするほどの必要性はありますまい。

 おおむね25度程度にも至れば、ぽかぽか陽気に重いコートなんか脱ぎ捨ててしまえとばかり、あ、これ、アリスの「終止符」の歌の一節を意識しましたが、まあそれは私の趣味ということで目をつぶっていただくとしまして、それで十分旅人のコートを脱がせるという「戦争目的」、あ、これは言い過ぎか、ともあれ、目的は達成できるという次第です。

 太陽が北風と異なるのは、対照的な手法であるということにとどまりません。

 無駄に労力を使わずとも、その目的を温厚な手段で達成できるという点にこそ、この事例の主眼点があるのです。


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 さて、社会性と人間性の論点に戻ります。

 社会性を高めるべく、厳しい北風に立ち向かわせ、そして本人もよしとばかりにその風に立ち向かうというのは、確かに傍から見れば英雄的でもあり、状況如何によっては大いに賞賛に値する行為であります。

 しかしながら、そのようなことをしてどれほどの「忍耐」が身につくか。

 一方、人間性が肝要であると称するは結構であるが、暖かければよいだろうとばかりに気温30度越えの熱帯夜よろしき場所で、エアコンもなしに窓も絞めてさあここで一晩寝たまえと、あ、これは夜が例えですが、昼の太陽の熱がもとにはあることですので、そこは御了承いただければと。

 あるいは、せいぜい20度にも至らぬ日中に、これまた、子供は風の子とかなんとか分かった口を利きながら、半ズボンや半そでで過ごさせるとか、こういう行為は大いに問題である。しかし、現実あの地において、そのようなトンチンカンな手法がどこかで大手を振ってまかり通っていたのではないかと、私は思われてなりません。


 何でもかんでも叶えてやればいいというものでもないが、何でもかんでも忍耐をとばかりに我慢を解くような手法の下、そんなところでも、人間性というのはテキトーに何とでも身につくことかもしれない。

 社会性という点においては、状況下における忍耐を身に着けられて云々。ただそれだけですよ。それ以上の何もない。くだらん我慢大会などやって、何が身につくかボケがと、申したい。そういう低レベルな社会性や人間性を養うくらいなら、何もしない方がよい。まあ、指導者側がそのレベルなら、被指導者側もまたそのレベルかその劣化版に落ち着くのが関の山でしょうけどな。

 そんな中、掃き溜めに鶴ではありませぬが、実力のある人が指導者側であれ被指導者側からであれ、そういう人の御縁があることによって、その地における人々の社会性や人間性が少しでも底上げできることを期待すべきかとは思いますがね。


 申し訳ないが、よつ葉園に私がいた頃の社会性や人間性というのは、その次元の域を出ない程度のものであったと、総括させていただきたい。

 私が高次元とは言わないが、まあ、低次元のシロモノでしたわ。

 ただこれは、一人やそこらの力で改善できるものではないことも確かです。

 しかし、自らしっかり立とうと思えば、周囲など相手にせずやるべきことをしていかねばならんのですよ。

 これはZ氏も私も同意見ですが、当時のよつ葉園に私を鍛えるような人材は、はっきり申し上げます、いませんでした。しかしそれゆえに、自らの拠って立つ処を定めた上で、自らをもって自らを鍛えることができたことは、確かです。


 いささかまとまりも何もないうえに、愚痴のようなものも入りまくりましたが、おいかがでしょうか。


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