第48話 安全地帯から火中を語る者へ

 この手の事件もそうじゃが、養護施設の子らに対する目というものと、何かある部分で共通したものが見え隠れはしていないだろうか?


 親がいない、ましてや親元で過ごせない。

 かわいそうな子どもたちじゃとばかりに、何か恵んだり、世話してやったりする。

 でも、その子らが大きくなって、さらに社会へと飛び出していく。

 そんなときに、自分より能力があって・・・、なんてなってみなさいよ。

 施設の子らなんかより、自分ら一般家庭のほうがどうこう。

 そういう思いを持つ人というのは、いつの時代も、どこにも、一定おる。

 あの事件にしてみればこうじゃ。

 そんなところに子どもをやった親が悪い。

 先生方はなんだかんだで一生懸命やっているじゃないか。

 確かに坂井某なる園長はひどいが、元はと言えば・・・。


 こんな調子で、相手を見る、あんた流にいえば、自称「世間の目」。

 そんなアホどもは、米河君ともあろう御方なら、叩きのめして立ち向かって来れんように、それも金輪際二度と。そのくらいのことをされるのでしょうが、大体なぁ、君みたいな力のある人間ばかりではないだろう。

 そんな力のある人は、わずかじゃ。

 ともあれ、そういう手合は君のような人間には正面切って言えないものである。

 それ、いつぞやのあなたにかかってきたチンケな妻子持ちとやらか、ああいう、自らを一般人だの普通だのと称する人ら、そういう人間の目というもの、これは人種差別における被差別側、米河君のかねてからの御推薦映画なんかもそうじゃけど、欧州内におけるユダヤ人の意識とかな、ああいうのと一緒。

 いささか気の利いた者になれば、「そんなの誰も気にしていない」とか、何もそこまでとか、そういうことを言いだすところじゃが、そんな者を相手にしておっても、決して状況はよくならん。どうしても、あなたやかの映画のエイブラハムズさんみたいにな、なっていかざるを得んのじゃ。


 君にしても、養護施設出身者だからということで、憐憫の情など駆けられたくもなかろう。その裏返しの、小馬鹿にしたような対応など。

 そんなことを述べてくるのは、大抵、自分が普通で一般人とでもくくられるような安全枠にいられる人間じゃ。

 もっとも、風の子学園の事件においては、米河さん御自身も、そういう安全枠の人ではあった。そこは、君自身、忘れてはならないぞ、老婆心というか、老ジジイ心からの忠告じゃ、これは(爆笑)。


 ただ、安全枠にいるからと言って、それを他人事(ひとごと)、どうせ他人(たにん)の火中と捉えて見逃すだけでは駄目であることは、言うまでもない。

 まあそりゃあな、弁護士で人の紛争に介入するような場合は、ある程度、そのくらいの姿勢でいないともたないところもあろうが、人間、そう簡単に割り切れるものなんかでないことは確かじゃ。


 まずは、あの旅行記等を執筆された米河君を、褒めて差し上げたい。

 わしみたいな老ジジイ心の過去の遺物に褒められてもうれしくないかもしれんが、まあそこは目をつぶってくれたまえ。

 ともあれ君がかの事件を旅行記的なルポで書いたものであれ、今取組んでおられるノンフィクションで紹介する形であれ、君はこの事件を後世に語り継ぐ使命を負わされた人間であることを、どうかしっかりと認識されて、活動されたい。


 もうすこし、本日の討論をまとめようではありませんか。


・・・・・・・ ・・・・・ ・


 夜は明けかけている。

 ホテルの外は、津山の気動車区。

 その横の津山線と姫新線の線路を、朝一番の列車が走っていく。

 ホテルのその部屋にある謎の絵は、両紳士の論争を黙って見ている。


・・・・・・・ ・・・・・ 

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