第46話 そして、ニチアサ

 時刻は朝の4時過ぎ。

 ここは、岡山県津山市の津山駅前のビジネスホテルの最上階。

 謎の絵が飾られた、線路沿いの部屋である。


「米河さん、起きられたか?」

「ええ。もう少し横になろうと思っていたところですが、どうも体が動くことを欲しておるようで」

「年を取るほどに、朝が早くなったでしょうがな」

「ええ。森川さん御指摘の通りです。それ、今まさに痛感しておるところでして」

「まあ、よろしい。それでは、貴君御存じの風の子学園の件について緊急討議を」

「ええ。そのつもりでおります」

「まずは、私の思うところを、貴君に申し上げたい」

「お願いいたします」


・・・・・・・ ・・・・・ ・


 なんと申しても、この事件についての感想は、この一言に尽きる。

 よつ葉園前園長の大槻和男さんが、あなたも御存じのZ氏の前で述べたという、

「あれは、論外ですよ」

もう、その言葉以外の何物でもありません。

 これはおそらく、貴君にとっても異論を述べる余地などなかろう。


~ はい。ありませんね。と、米河氏。


 そうじゃろうな。わしも知っておる範囲では、というか、君の御両親もまだ幼いうえに、君に至っては生れる前のお話であるが、岡山県西部ではとある福祉施設でとんでもない事件が起こったこともある。私はそんな事件には到底賛同する気もなかったが、岡山県は、そんなしょうもないところを「模範施設」としていたようであるから、世話はないわな。

 ああいうものを、私はもちろん容認する気はない。

 君がどう思われるかはともあれ、大槻さんの若い頃は、子どもらに今でいう体罰をいとわれぬところが見られた。わし自身もその点、人のことは申せぬ。

 しかしながら、これは私が言うと言い訳にしかならぬやもわからぬが、当時の週刊誌に出ていた記事に、かの自称学園を手伝いに行った元校長先生とやらのインタビュー記事に、こんな記述があったことを覚えておる。


「坂井(園長)には、教育のきの字も、愛情のあの字もなかった」


 なんせ、坂井某の営業の成果よろしく、入所者があって金が入ったあかつきに、彼はなんてことを述べたか。

「労働力になるで」

 そんなことも、書かれてあったな。情けないことこの上もないわ。

 ど根性ガエルの町田先生のセリフじゃないが、「教師生活25年~」の下り、あれをわしが言い換えたら、「福祉生活ウン十年~」ってことにもなろうがな。わしはあの時、ど根性ガエルの町田さんのお気持ち、よーくわかったよ。


 さて、そこに来て、その事件を若い頃にリアルタイムで見た君は、どう思われるかね?

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