第40話 社会性の極限値3・両刃の刃
森川氏は、米河氏の持論を踏まえて自説を述べる。
少しばかり、明け方の兆候が見え始めた。
・・・ ・・・ ・・・・・・・
米河君の先程の御持論、まあ、かねて君がそのような論を方々(ほうぼう)で展開しておることはすでに把握しておるから、いちいちこちらもビビったりするところではない。正直なところ、戦前の我が国の状況に比べればはるかにましじゃ。
とはいえ、これは真剣に私も分析して参っておる。
まず、貴君の「簡単にはらんでおろすそこらのにいちゃんネエチャン」か、その逆かはどちらでもよいが、その表現について。
我が子がかわいいのヘチマのとあちこちで見境なく述べる妻子持ちよりも、ある意味その簡単にどうのこうの若造らのほうが社会性という点において上出来の部類であるという趣旨の弁であるが、わしもその点においては、全面的に賛意など示すつもりはないが、一定、理解する。
何において特に私が君を評価するかと申すと、そのZ氏もそうじゃが、何と申してもこれは三島由紀夫さんの受売りではないが、「熱情」です。
これはもう、掛け値なしに買わせていただきたい。頭下げてでも。まあ、土下座までは勘弁しておくれよ、わしもそこまで言われちゃ、たまらんわ(苦笑)。
この期に及んで三島さんは東大全共闘の諸君に「それ以外は信じない」と言い切られたが、わしはそんなことはない。
貴君のその弁にも、鋭い社会評論、社会性の底上げを渇望しておるという点において、手法はともあれ、大いに評価を惜しまぬ。
じゃがな、どういうものでも物事には表裏(ひょうり)ありますな。
あなたは自らの勢いをもって人や社会に立向って、敵を総括と称して倒してでもつき進めていこうという御姿勢の持主である。
ところで一つ、君に質問じゃ。
一時期貴君は兵庫県に移住されたな。
神戸市に行こうとされたが、なぜか、明石市に、西明石の海沿いに行かれた。
なぜ自分が神戸ではなく明石に御縁があったのか。
何かお気づきになったことがおありではないかな。
~ ええ。明石市に行って半年ほどした一斉地方選挙での市長選、その後の市政の動きにつきまして、かの市長がイニシアチブをとって変革させてきた一連の状況を肌身で見るためではなかったか。それは必ず、私の人生の後半生に影響を与える。そのことを神に導かれたのではないかと、そんなことを思いました。(米河氏)
さようか。やはり、そうじゃな。
あんたもなんじゃ、その市長さんとよく似た点をお持ちじゃ。
ただ貴君は、仲間づくりのようなものは苦手ですな。
政治家になるよりは、その周辺でうごめいた方がよろしい方かもしれん。
そのことによく気付かれたのではありませんか?
~ はい。そのとおりです。と、米河氏。
明石の前市長さんはともあれ、問題は米河君、あなたじゃ。
先程の「簡単にはらんでおろす」の件じゃが、これは確かに社会性を突き詰めればそうもなりかねないのは確かである。何より、鋭さと相手を追い込む力がある。
じゃが、一歩間違えればそれはナチスドイツの「優性主義」のような方向に進みかねぬ危険も感じないわけにはいかん。
それ以前の問題として、女性の不安感を増す点においては、今どきの何じゃ、エルジー何某(なにがし)を逆手にとって云々の活動をする連中の想定する社会よりもある意味罪づくりなところを感じてしまう。その結果として、その言葉はあなたにその刃が向かいかねない危惧も、私はいだいておるのじゃ。
どうじゃろう。大槻さんもそうであるが、社会性を突き詰めまくることの限界というものを、あなたも感じておられやせんかな。
もう少し時間があるようじゃから、米河君、御意見を願えませんか。
プリキュアの前に、もう少し、暴れて御覧なさいな(苦笑)。
・・・ ・・・ ・・・・・・・
ようよう白く成り行く、米河邸のベランダ。
あおられた米河氏は、少し息を整えて、さらに私見を述べる。
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