第39話 社会性の極限値2・予防福祉の極み?
そして、2023年6月18日の午前4時過ぎ。
「米河さん、夜中のビールはうまいかね?」
老紳士の質問に、眠りの浅くなった現代っ子は答える。
「ええ、美味いですよ。しかも、一仕事の後の一杯と来ております」
「さよか。わしの生前は、ビールは高級品じゃったのう」
「ですよね。私なんて、いい時代に生きられていいですよ、この点は」
軽く挨拶を終えた後、老紳士は現代っ子に持論の展開を求めた。
・・・ ・・・ ・・・・・・・
それでは、早速森川さんのリクエストに応じまして、私論を述べて参ります。
昨日の社会性についての大槻さんと山崎さんの件とは別に、これは私が学生時代にある時ふと思ったことをベースにしておりますので、そちらを披露いたします。
これはですね、よつ葉園の尾沢康男児童指導員さんが当時、よつ葉園の職員住宅に住まれておりまして、ちょうど、子どもさんが生まれて間もない頃のことでした。
私はちょうど、大学生でした。
その頃、私ではなくZ氏が聞いた話を述べます。
尾沢さんは、何を思っていたのか、彼に、家族や家庭の良さをひたすら述べておられました。結婚して娘さんも生まれ、さぞや素晴らしい御家庭が出来上がった。そのこと自体は慶賀に堪えぬことであり、第三者風情がとやかく申せることではない。
そこをまたわあわあホザく低能も世には多いですが、そういう雑魚どもは私の管轄ではありませんので、どうぞ余所でやっていただきたい。はした金やまして目腐れ飯で話に乗ってやるほど、私は寛容ではありませんからね。
それはともかく、尾沢氏はしきりと、大学に入って間もなく、必死で自らの立ち位置を作るべく奮闘しておるZ氏に、言うわけですよ。
家庭を見るべきだの、我が子がかわいい、だの。
これに対するZ氏の弁が、ふるっておりました。
我が子がかわいいの過程が素晴らしいの、結婚生活は夢があってよいだの、そんなことに構っておられるような立場にない者に、何をホザいてくれよるか。テメエはそれでええかもしれんが、こっちはこれから身を立てていかねばならん立場やぞ。
そんな戯言が、これから大学を足場に次の世界へ向かわねばならん大の男に向かってクソの役にでも立つのか?
我が子がかわいいのヘチマの、そんな寝言抜かす暇があったら、今の私の役に立つまとまった金のひとつでも、司法試験の予備校代でも出してみな!
そのほうが、余程私には正味というものである。
舌先三寸口パクで、そんな程度の言葉しか述べられないなら、そんな人間風情が人を「指導」など、片腹痛いわ!
我が子がかわいいのヘチマのだが、そんな寝言をこちらに行ってくる暇があれば、御自身の子女にしっかり社会性を身につけさせろ。テメエの仕事場でも同じ。
それが出来ねえなら、家庭だの子どもだの、抜かすな!
こんなテイタラクなら、まだ!
簡単にはらんでおろす(妊娠して中絶する)そこらの二十歳前後のネエチャンやそのつがいのニイチャンのほうが、ワタクシ共は子どもも満足に育てられん阿呆でございますとわかっておるだけ、社会性の点でははるかに上出来や!
とまあ、こういう調子でございましたよ。
ちょっとこれは過激かなと思いましたが、彼の熱情を感じるに余りありました。
自らの立つべきところに向かうには、そんなものは一切無用。
それにかかわる問答も無用!
先日彼とその件について話しましたけど、変わっていませんね、彼は(苦笑)。
「あれぞ予防福祉の極めつけですぞ」
とまあ、こんな調子でした。いやあ、やれ人権がヘチマの思いやりがへったくれのを通り越し切った清々(すがすが)しささえ感じましたよ。
かく言う私も、彼のあの言葉、人前で時折披露しております。
一つのテキストとしての使い出はありますからね、いろいろな場面で。
・・・ ・・・ ・・・・・・・
まだ夜は明けない。
「米河君、かねて聞いておる話じゃが、それでもこうして改めて聞かされると、すさまじいことこの上ないのう。聞いておって腹が立つどころか爽快ささえ感じるのは、わしも男じゃからかもしれん。とはいえこれ、女性を中心に「人間性」を確実に疑われる余地しかないのう(苦笑)」
「ええ。ある意味極論ですから」
「まあよろしい。では、私も貴君提示のエピソード2件に対し私見を述べさせていただくぞ。オカクゴは、よろしくて?」
「覚悟の上です。しかし森川さん、今のお言葉、いつぞやの?」
「もうばれたか。君の趣味に合せてやったまでじゃ(爆笑)」
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