第33話 少女たちの旅にみる 2
「御卓見、しかとうけたまわりました。では、ワタクシの愚見をのべさせていただきたい。よろしいか?」
「いえいえ、是非とも、森川先生の御高説を賜りたく存じます」
森川元園長は、かつて自らが運営責任者となっていた施設のサイトから伺われるところの私見を述べ始めた。
・・・ ・・・ ・・・・・・・
米河君の先程の御意見であるが、私も特に異論はない。
ケチをつける気もないから、御安心たもれ。
確かに貴君の弁の通り、この記事から伺われる事実は、よつ葉園という養護施設において社会性を底上げできている象徴としての要素があることは確かですな。
ここでひとつ、あなたにお尋ねする。あんなところに住めるかとか、まあそう悪態をつくのはお控えいただいて、お答えください。
まず、私が園長をしておって、君は中学生の入所児童。高校生でもよろしいが。
その設定で、あなたに、2泊3日でそれなんじゃ、昔なら周遊券というところであろうが、今どきですから、そうじゃな、青春18きっぷな、それで、どこか列車に乗って旅に出て来なさいと申し上げた。
あなたのことじゃ。訳なく予定も組み、訳なくその間旅してこられましょう。
それを、この広報誌に乗せるとする。今どきのこっちゃ、自撮り写真つけてな。
これこそ肝心じゃのう、貴君の名文を添えていただこうではないか(苦笑)。
何なら、わしが園長として一言コメントつけて差し上げようかね。
さて、それを読まれた方々が、どう感じるか。
もちろん、その感想の方向性はどうでもよろしい。
問題は、よつ葉園という養護施設について。
その記事を見て、社会性が全体として底上げできていると見てもらえるかな?
・・・ ・・・ ・・・・・・・
「今御述べになった条件で考えるに、自分を出汁にされてはちょっと言い辛いですけど、確かに、飛び抜けた社会性を持っていそうな少年がいるという、そういうイメージは持ってもらえる可能性は、なくもありませんね」
「そう来ると思っておったわ。確かに米河君、あなたはあの地にいた元児童各位と比較しても、明らかに飛び抜けた社会性をお持ちであった。それは私も思うぞ」
「ありがとうございます。お世辞でもそう評価していただければ嬉しいです」
「いやこれはお世辞などではないぞ。客観的にそう判断できるだけの材料ならいくらもあるではないか。叩けばホコリどころか、叩かずしてすでにホコリまみれじゃというと、これは悪口か(爆笑)、すまんすまん。まあ、あなたのことはよろしいわ」
「私のホコリはともかくとしまして、その記事を見るからに、確かにこの施設は才能のある子を伸ばす方針を立てているという印象をもってはもらえます。それはもちろん大事なことですよ。みんな仲良く低レベルの平等、先日亡くなられた金ぴか先生こと佐藤忠志さんの著書にあった、「悪平等」なんて言葉で語るような、そんなレベルの環境より余程いい」
「まあそれは、そうじゃのう。で、よつ葉園全体の社会性が、君のその記事で底上げできていると読み取ってもらえる余地は、あるかな?」
少し間をおいて、米河氏は答えた。
「残念ながら、それはいささか無理筋でしょう。例えは何ですが、どこかの宗教団体の広告塔みたいな立ち位置になってしまいかねません。実態はともあれ、ほらほらこんなアイドルもいますから、ってな調子で。具体例は申しませんけど、青い鳥のおねえさんのところとか(苦笑)」
「彼女も、中3トリオとやらの頃は可愛げあったが、のう・・・」
「ですよね。私、彼女の曲はCDからパソコンに結構取込んでいますよ。山口百恵さんや森昌子さんの曲はないですけど、彼女のならありまっせ」
「まあそれはあなたの趣味じゃ。別に文句は言わんわ(苦笑)。彼女の曲を聴いたからあなたもその宗教団体の一味とか七味とか、そういうわけでもないのは明らかな話じゃ。それはともかく、米河清治という入所児童一人をビシビシ鍛えるだけで全体の社会性は必ずしも底上げされない。それは確かじゃね」
「そのとおりです。全体の底上げのためには、その地にいる一人ひとりの特性をいかにうまく引出していくかが肝要ですね」
・・・ ・・・ ・・・・・・・
夜が明けてきた。
次回期日の協議の結果、14日未明と決定。
その日は、米河氏の姪の誕生日であるという。
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