第31話 やはり君は・・・

 さて、2023年6月10日・土曜日。

 ごとうびではあるが、土曜日のためその機能は週明け12日月曜に。

 10日未明の米河邸より。


・・・ ・・・ ・・・・・・・


「お、やっておるな」

 老紳士がやってきた。米河氏はすでに、パソコンで仕事をしている。

「ええ、何か朝早くから目覚めまして、もう、やらなあきまへん」

「そのノンフィクションを読ませていただいたが、君も結局、私が生前やってきたことを場所と形を変えてやっておるようにしか見えんな。そちらに出ておる真鍋氏とは面識は無論ないが、君においてそういう御縁ができたのも、よつ葉園の影響が少なからずあるのではないかな?」

「そりゃあ、ありますよ」

「そうじゃろうな」


 仕事の手を止めた米河氏の目前に、老紳士が立ちはだかるように立っている。

「では米河君、今日は改めてこれまでの論の整理をいたそう」

「わかりました」

 森川一郎氏は、米河氏の座る横からパソコン画面を見つつ、話し始めた。


・・・ ・・・ ・・・・・・・


 私がよつ葉園で園長をしていた折も、君がそうして大学卒業後その真鍋さんという方と大検と通信制高校の併用をいかに活用するかを世に問うてきた経緯についても、まるっきり共通点があることにお気づきでないか?


~ ええ。今生きているこの世界の「制度」を知って活用することです(米河氏)。


 そのとおり。

 このような視点に立って人を導いていくには、今生きておる現状の制度をきちんと把握して、それをいかに活用するかに尽きる。

 これはな、実のところ、山上さんのような母子一体感をベースに生きている人らにはできないとは言わないまでも、過剰要求の過ぎる話である。

 閉鎖的なその範囲では通用しても、その外では全く通用しない。

 それこそ何じゃ、「福祉ムラ」の中でさえも、いずれ疑問を持たれてしまう。

 その場の今ここの状況を大事にするその手合いの人らの限界を、わしはとっくに読取っておったわけじゃ。

 だからこそ、その対立軸になる、言うなら男社会でバリバリ生き抜く力のある人間をそこに投入し、その地を結果的に長く持たせるようにせねばならん。

 別にわしは男女差別をベースにそんなことを申しておるのではないからな。


 大槻君をわしがあのよつ葉園に呼込んだのは、そのためである。

 そんなことは米河君あたりにはとっくにお見通しであろうが、かの大槻君に関する限り、第三者の立場で外からという形でもいいようではあるが、やはりその中に入ってその中の隅々まで目を通したうえで、今生の世に通用する組織にしていただきたいという思いがあったのじゃ。

 あなたには、その福祉の中に入って来いとは申せぬ。

 米河さんのような方は、そのノンフィクションで引合いに出されておる真鍋さんという方のように、どうぞ、外からの目として機能してくださればありがたい。

 あなた自身の問題ではなく卒園生のZ君の絡みで紹介されての御縁とのことであるが、あなたにとってもその大検の問題、さらに通信の問題は、他人事(ひとごと)ではなかったでしょうが。


 ともあれ、対立軸をよつ葉園の地に据えたのは、わたくし森川一郎である。

 無論、明白な意図をもってそのような措置をとったのです。

 その趣旨は、君の先輩の大宮哲郎さんもあの時点ですでに理解しておられた。


 さて、あなたのおられた時代のことを述べてもしょうがないな。

 近年のよつ葉園の状況、ホームページに掲載された資料でご覧になったでしょう。

 それをもとに、私どもで分析してみないかね。

 まあ、どこかで君と対立する点も出ようがな。


~ わかりました。それでは、そのページを開きましょう(米河氏)。


・・・ ・・・ ・・・・・・・


 かくして米河氏は、現在のよつ葉園のホームページを開いた。

 まだ、夜は明けていない。

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