第30話 休戦延長。ノンフィクションの画竜点睛より
6月9日・金曜日未明。
森川氏は、いったん予定通り米河氏のもとを訪れた。
「米河さん、もう1日休戦を延長しないかな。今取組んでおいでのノンフィクションの加筆と校正に余念がなさそうであるから、もう1日延長の上、明日10日土曜日未明の再開でおいかがか?」
米河氏としてみれば、これは渡りに船。
老紳士の提案を、彼は快く受容した。
「折角ですので森川さん、私が昨日書いた当ノンフィクションの一番の肝というべき部分を、折角ですのでお読みの上御感想を頂ければと存じます」
パソコンは立上げたままである。
前日夕方より酒を飲んで寝てしまい、電源を切っていなかった模様。
米河氏は早速、当該部分を適示した。
「ほう、これは貴君の玉稿のまさに「画竜点睛」の部分であるな」
一言述べた森川氏、その部分をじっくりと読む。
・・・ ・・・ ・・・・・・・
この頃までは、不登校や高校中退(転編入のうちの「転入」も含む。転入の場合は高卒要件の「連続して3年以上」に合致するが、中退してからの編入は空白期間ができるため、3年間での卒業が不可能になる)、あるいは大検の受検に向かう人たちには程度の差はあれども、どこか悲壮感のようなものが見え隠れしていた。
その悲壮感を打破するきっかけとなったのが、「大検と通信制の併用」という手法であった。
1990年代半ばから、真鍋氏は通信制高校の柔軟さと可能性に目をつけ、大検と併用することによってできるだけ早く確実に大学受験資格を得られることを世上に大きくアピールした。これで、これまで学力上位層を救ってきた印象の強い大検だけでなく、学力面で不安のある不登校生や高校中退者たちをも大きく救うきっかけを与えられることとなった。
もっとも、定時制高校及び通信制高校の最低修業年限が3年に引下げられたことで、無理に大検(高認)の合格を目指さなくても、通信制高校の単位を認定されさえすれば、単なる大学入学(受験)資格だけでなく高等学校卒業資格=「高卒」という「学歴」さえも得られるようになった。それは単に通信制高校を飛躍的に発展させるだけでなく、大検(高認)というペーパーテストによる資格試験さえも飲み込み、実質的な発展的解消へと向かわせる様相さえ示し始めた。
大検と通信制高校の併用という手法。
今やごく普通の手法となっているが、当時はいささか裏技的な手法であった。
この手法を広く世に広めるきっかけは、真鍋氏が主宰していた「不登校・高校中退110番」に参加されていたある方からの情報であった。
いつだったか正確なことは覚えていないが、ある時真鍋氏と電話で話していて、突如この情報を伝えられた。いささかびっくりした覚えが今もある。
これで何かが変わっていく予感もしたが、まさかここまで世の中が変わるとは、当時はさすがに思いもしなかった。
真鍋氏一人が孤軍奮闘するだけでなく、こうして全国レベルでこの問題に取組んでいた人たちがいたからこそ、リアルタイムで困っている青年やその保護者の皆様を救う道標を示しえたのである。この手法の普及は、その後の社会全体の制度設計にも影響を与えたと言っても過言ではなかろう。
(草の根からの教育改革 ~大検と通信制の躍進 与方藤士朗 一部引用)
* この引用部分の記事は、6月20日公開予定です。
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米河君、あなたもよくよく見てみれば、生前の私と同じような経験を今生でされておるではないか。私の場合は岡山の片田舎の養護施設とその周りでの話じゃったが、あなたの経験は掛値なしに全国に波及する性質の事案ではないか。
君はまさに、「台風の目」というべき立ち位置に入って、その変化の一部始終を学習塾という場所から見たのである。さすれば君は、真鍋さんという方の下でその状況をじっくりと見て、その上で語り継ぐべき人物であると思うぞ。
しかし何じゃい、わしの若い頃を見るようじゃ(苦笑)。
ところで君は、大槻和男君にも似ておる要素があるが、森川一郎、ま、わしじゃけど、こちらにも似ておる要素が見えるのう。
ますます、楽しみになって来たわ。
それでは、明日、参るからな。
今日は散髪にでも行かれるのでしょう。
ゆっくりと英気を養って、わしを迎え撃たれよ。
それでは、失礼する。
・・・ ・・・ ・・・・・・・
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