第5話 養護施設と典型核家族の最大の相違点とは?! 1

「問題ないことで、いちいちよそ見するなと言われましてもねぇ(苦笑)」

「普通ならいちいち言わんが、内容が内容だけにな、ちょっとわしも、君にはひとつ耳かっぽじって聞きやがれという気持ちが、出てしもうたかな」

「これも、学問の自由でありますから(苦笑)」

 少し面白おかしく言い合った後、森川園長が私見をさらに述べる。


・・・ ・・・ ・・・・・・・


 さて、米河君、教育勅語の精神云々はひとまず置いて、本論に戻りましょう。

 まず、私が生前創立者として立ち上げたよつ葉園という養護施設における、職員と児童の関係性と、貴殿が引合いに出して来られた、典型的な核家族像。

 両者の差につき、まずはどのような差異があるかを考察してみよう。


 前者、つまりよつ葉園に限らず養護施設と言われる場所には、被保護者たる児童と保護者たる職員がおる。微妙にずれた位置の職員や、本来なら対処しているはずだが施設で以前拘らせておる元児童などという者も存在しないではないが、そういう存在についてはこの際論から外す。無視するわけではないがな。

 さて、職員と児童の関係性は、何と申しても、まずは典型的な児童とその者に関与する最低限の職員の関係性にスポットを当ててみることで、明らかになることもありましょう。それと、典型的な核家族との関係を並行して論じられるための土壌を作ろうではないか。

 よければ米河君、あなたがその土壌となるモデルを提示されたい。


 森川氏の依頼を受け、米河氏は即答した。


・・・ ・・・ ・・・・・・・


 それでは、私の方で作らせていただきましょう。望むところです。

 まず、厄介なほうから手をつけますね。

 ある養護施設と言われる場所にいる、典型的な児童を一人。

 年齢性別は、都度必要になればその要素を代入すればよい。具体性を持たせすぎてはその度無駄な処置が必要となるので、キリがありませんから。

 要は、その施設にいる誰か、一人の子。無色透明感のある定義ではあるが、とりあえずはこれでいい。実は、今後の展開を考え、あえてそうしております。


 さて、その子を担当するのは、誰か。

 これまた、職掌はともあれ、保母もしくは児童指導員と呼ばれる職員1名。

 これも、男女等の要素はあえて述べません。都度、その要素を代入します。

 しかしながら、担当せし個々の職員だけでその子の「保護」は完結しない。


 ここで少し、その子から見た縦軸ではなく横軸に、少しだけ触れます。

 その養護施設において、定員1名などということは、まずありえない。

 同じような子が、その地には複数存在しますよね。

 そこでも、今私が述べた関係性が成立しています。


 縦軸に戻りまして、それぞれ典型的な施設の「子」たちの間に複数成立した児童と職員の関係性の一つ一つを統合するのが、その施設の施設長となります。

 その施設長こそが、対外的にその子を保護する「保護者」となります。そこはあくまでも、個々子らの担当職員やそれをサポートする幹部職員と目される職員は、対外的には特段必要とされる要素ではまったくと言っていいほど、ないのです。

 連帯債務のような要素は、そこにはありません。


 これに対して、典型的な核家族ではどうか。

 勤労者の父親に専業主婦の母親。そうでない場合も多々ありますが、この際、勤労者や専業主婦といった要素は、検討材料から外します。

 2人の子がいるという点については、さして問題ではない。

 仮に母親と子を、養護施設の担当職員と入所児童の関係と同じものとみなして考えてみましょう。確かに、同じような関係性は見られます。

 そして、その2人の子には、同等の関係性がそれぞれ成立しています。

 これも、養護施設と同じです。

 あとは、子が1人だろうが、3人以上であろうが、関係性はまったく同じです。

 そして、対外的に代表する役割は、父親にあると仮定します。

 どうでしょう。

 ここまでは、養護施設の児童と職員の関係性と同じではないですかね。


 しかしながら、養護施設と典型核家族においては、ここから、最大の相違点が発生します。

 追って、ご説明いたしましょう。

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