第6話
早朝。
俺は、ミズロン村を出て北へと向かった。目的は当然ながら、ドラゴンの消息を探るためである。
昨日の男が嘘を言っている可能性もあるが、別にそれはそれで良い。とりあえずの目標があれば、それだけでやる気が湧いてくるからだ。
捜査能力は皆無だが、行動力だけは人一倍あると自負している。
何キロ歩いたのだろうか……。
既に、太陽は頭上にある。つまり、昼に差し掛かったところだろう。
「北と言っても、あくまで飛んで去ったのなら痕跡も無くて当然か」
と、俺はため息交じりに独り言を声に出した。
痕跡が残っていれば良いのだが、ここまでの道中で何も痕跡らしいものは見つけられていない。
今日は引き上げるとしようか……。
いや、この辺にはドラゴンの棲息地はないはずだ。
俺はそれをずっと気にしていたのである。なら、思わぬところから痕跡が見つかるかもしれない。
と、考えたものの、そう都合よく痕跡など見つからない。
それからも、色々と思考を巡らした。
「……なるほど」
気が付いた。
何も痕跡が無いという、その不自然さについてだ。
俺は昨日、シェヌロカの町から東に向かってミズロン村にやって来たのだ。その際、村に近づくなりドラゴンによると思われる破壊の痕跡があちこちにあった。
しかし、今は村を出て北へと向かっているというものの、何らドラゴンによる破壊の痕跡がないのだ。
もちろん、北側だけ偶然何もしなかった可能性もある。
それに、ミズロン村の西側(シェヌロカの町からミズロン村へ向かう道中)だけ被害が出ただけかもしれない。
だが、現状何も痕跡が見つからない以上は、この点に賭ける価値はあるだろう。
「一度村へ戻ってみようか」
俺は、駆け足でミズロン村へと戻った。
体力にも自信はある。
そして村へ戻って直ぐに、俺は村から南、さらに村から西の方角を探索した。
結果、どちらもドラゴンによる破壊の痕跡があちこちにあった。つまり、ドラゴンはミズロン村から北の方角以外を荒らし回ったということになる。
男の話では、ドラゴンは北から来て、北へ逃げたのだという。
どうして、村の北側だけには何も痕跡がないのだろうか?
帰り道だから、ただ飛び去っただけなのだろうか?
既に夕日が赤く染まっている。
今日はこのくらいにしよう。
俺は、調査を止めて寝床へと向かった。
明日もう一度、北の方角を調査してみよう。さらに何か見つかるかもしれない。
「おい! 」
ほっと一息吐こうと思った矢先、男から声をかけられた。
振り返ると、そこには冒険者らしき男女が複数人立っている。決して歓迎すべき状況では無いだろう。
「お前、今日どこにもいなかったが何をしてたんだ? 」
1人がそういう。
「俺がどこで何をしていようとも、それがキミたちに関係するのか? 」
「穀潰しがっ! みんな村の復興のために働いているのに、よくもサボれるな。流石は引きこもりのイゴルだな」
「キミたちは、その復興活動をして対価、つまりは日当はを得てるんだろ? 俺は今日の日当は貰っていない。何も文句を言われる筋合いはないな」
いちいち、他人が何をしているのかを気にするのかね。
「だが、お前はこの村に来るだけで報酬が手に入って、そしてただ飯が食えるから来ってわけだろ? 人の不幸を飯のタネにしやがってな」
俺は今日、殆ど村の外にいた。だから俺に八つ当たりをしたくなる気持ちも分からなくはないが、少しは冷静になって欲しいところだ。
他のメンバーも、男に便乗して俺を罵倒する。
「いくらなんでも言いすぎだ。安っぽい正義感を俺にぶつけないでくれ。そんなのは、ガキ相手の説教だけにしてもらいたいな」
「この野郎っ! 」
突然、男が殴りかかってきた。
俺は咄嗟に躱す。
「やめとけ。こんな屑を殴るための拳じゃないだろう」
連れの1人が、男を諫める。
「あ、ああ。こんな糞野郎ごときに手を汚すところだったぜ」
男がそう言うと、冒険者の集団は俺の前から去って行く。
全く、嫌な気分にさせてくれるものだ。
「複数で行動しているってことは、パーティなんだろう? 」
連中の去り際に、俺はそう訊ねたが、連中が返答することは無かった。
顔は覚えた。今後も何かしてくるようなら、俺にも考えがある。
それにしてもだ。そろそろ、俺の経歴を回りに吹聴して回るかね……。こんな目に遭い続けるのも、いい加減うんざりだ。
いや、今さらそういう話をしても、自慢話にしか聞こえないだろうな。
ミズロン村は復興途上だが、幸い酒の提供は行われている。連中のせいで気分も悪いし、一杯やってから寝床に戻るとしよう。
※
某所。
数名の男たちが、集まっていた。1人はフードに星形のバッチを3つ付けており、またもう1人は同じく星形のバッチを1つつけている。その他の者たちは、特にバッチをつけてない。
「明日、再び村を襲撃する」
と、バッチ3つの男が言う。
「……そうか。我々は上の指示で、貴殿に派遣された身。貴殿の決定に異を唱えるつもりはない。例え、我々の同胞に犠牲者が出たとしてもな」
そう答えるのは、バッチ1つの男だった。
「帝国での件は、残念に思う。だが、それがキミらの主人との取引だ」
「判っている」
要するに、バッチ1つの男と数名の男たちは、本来所属する組織から派遣された者たちなのである。派遣された先がバッチ3つの男ということだ。
「まあ、次も問題なく実験できるだろう。特に上級クラスの冒険者もいないし、王立騎士団もやる気が無いのか、わずか数名だ。それに王都ムーク市民連隊や、ボワド市民連隊も長期間の大規模演習のため不在。やりたい放題できるってわけだ」
バッチ3つの男はそうに言ったものの、内心では懸念していることもあった。しかし酒も飲んでいたため、やけに積極的な思考になっていたのだ。
バッチ1つの男は一瞬だけ呆れた表情を浮かべたが、直ぐに引き締める。
「だが、警戒すべき相手は他にもあるんだろ? 」
「まあな。しかし、懸念していた連中は早々に帰った。問題ないだろう」
「……で、ドラゴンは何体連れて行くんだ? 」
「先日通り、1体で良い。まだ数体を操る技量もないからな」
「では、その通り準備しておこう。お前ら、明日は早いぞ」
バッチ1つがそう言うと、彼と数名の男たちがこの場を離れたのであった。
1人になったバッチ3つの男は、呟く。
「ガゴル団か……。流石は、敗戦国の武装集団と言ったところだな。最後の意地なのだろう」
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