第7話


 翌朝。

 俺は昨日と同様に、村の北を探索していた。しかし、ただひたすらに先へと進むのではなく、周囲を見渡しつつゆっくりとだ。


 本来なら、ミズロン村を含む一帯を管轄する街道保安官という者が行うべき仕事だろう。

 だが、昨日に続いて、街道保安官や保安官補らしき者たちの姿は見られない。復興活動で忙しいのか、はたまた日常的に起こり得る様々な案件で忙しいのだろうか。


 同様に、王立騎士団の騎士や従士数名もミズロン村にやって来ているようだが、ここで捜査をしている形跡はない。村の惨状を確認しに来ただけのなのだろう。




 一歩一歩。

 じっくりと見て回る。


 地味で疲れる。こういう作業特有の疲労感に参りそうだが、手がかりはそういうところから発見されたりすることも多い。



「これは……」


 見つけた。


「そんなことが……。いや、ありえない話ではないか」


 青色に輝く結晶の残骸。

 それが、あちこちに落ちていたのだ。


「……もう実用化の段階まで進んだのか? 」


 俺の知っている情報に照らし合わせれば、青色に輝く結晶の残骸は≪扉≫なる業が為されたことを意味する。

 ≪扉≫とは、簡単に言えば物体をワープさせる技術を指す名称のことである。


「≪扉≫を使ってドラゴンを放った……? 」


 そうだとすればミズロン村の事件は、人為的なものによる犯行と言うことになる。

 そして、ドラゴンは魔物だ。魔物である以上、一部の者たちにとっては使役の対象になる。


 一体誰が魔物を使役するか……。

 それは、≪魔族≫という人種である。

 

 しかも、≪扉≫という技術をずっと昔から研究していたのも、≪魔族≫たちが治める国なのだ。

 

 つまり、≪扉≫を使って、ミズロン村付近に放つという、2つの条件に合致する。


  


 ただ、このような≪扉≫が使われた大規模な事件は他にない。


「まだ試験的な運用というところか……」


 直ぐに王都へ戻らなければならない。

 それに、付近から妙な気配も感じる。


 俺は青色に輝く結晶の残骸を素早く集めて、帰路についた。





 1体のドラゴンが、大空を飛んでいた。

 ドラゴンは、その主人が定めた標的に向かって高速で飛び進む。それは、ミズロン村だった。




 まもなく、標的となっているミズロン村に到着する。


  


 ……はずだった。



 妙な気配の正体は、ドラゴンであった。俺のある能力では、魔物の気配など感じとれないのだが、どうやらドラゴンは違うようだ。他の魔物と格が違うことの表れかもしれない。


 

 さて、もう1つ気になる気配があるのだが、今は俺の頭上を飛び去ろうとしているドラゴンをどうにかするのが先決だろう。

 

 既に、村が視界に入っている。

 

 放置すれば、また村が襲撃されるかもしれない。

 そう考えた俺は、ドラゴンに向かって魔法を放った。火炎放射である。俺の魔力が尽きない限り、激しい炎は延々と出続けるのだ。だからトコトンやってしまえば良い。


「グァァァァ」


 ドラゴンはそう大きな音を出して鳴くと、俺の目の前に舞い降りて来た。

 そして、俺を睨め付ける。


 明確な敵意を向けて。



 俺は、隠し持っているピストルに触れる。

 咄嗟のことだったわけだし、昔の癖でつい触れてしまったのだろう。


 だが、こんなものではドラゴンは倒せない。仮に、大砲が複数あって同時に砲撃を行ったとしても微妙なところだろう。


 つまり、俺が身に付けた……身に付けさせられた業で対応しなければならない。

 先ほどの火炎放射のように。


「グァァァァァ! 」


 ドラゴンが口から炎を吐き出す。

 俺も、負けじと火炎放射を行う。次第にドラゴンが吐き出す炎の威力が弱まり、俺の放つ炎によって包まれた。


「グァァァァァ! 」


 またドラゴンが鳴くと、俺に向かって突進してきた。そして近づくなり、鋭い爪で俺を攻撃しようとする。


「遅い! 」


 俺はそれを避けて直ぐにドラゴンの背後につき、拳に魔力を集中させて思いっきり殴った。


「ギャアアアアア! 」


 ドラゴンはそれまでにない声で鳴きながら、遠くに吹っ飛んでいく。一方で俺の拳は液体で汚れていた。その液体の正体は、ドラゴンの血やその他の体液だろう。


「そこで大人しくしてろ。今すぐ息の根を止めてやる」


 俺は止めを刺すために、ドラゴンが吹っ飛んでいった方へと走って向かう。ドラゴンはあまりの衝撃を受けたためか、必死に起き上がろうとしている。

 しかし、なかなか起き上がれないようだ。


 ドラゴンに近づき、俺は再び拳に魔力を集中させた。

 そして、ドラゴンの顔面を殴ったのである。


「終わったか」


 ドラゴンの頭部は、血をまき散らしながら砕け散った。つまりそれは、ドラゴンの死を意味する。


 とりあえず、ドラゴンの討伐には成功した。

 だが、問題の根本解決には至っていない。それは、ミズロン村の付近に≪扉≫が使われた形跡があったからだ。


 要するに≪魔族≫による仕業と考えれば、≪魔族≫を何とかしなければならない。

 とはいえ、今ここで深く考えたところでどうにもならないだろう。



「そういえば、俺は冒険者だったな。ドラゴンの素材でも回収するとしようか」


 ドラゴンも魔物である以上はコアがある。それを回収すれば討伐の証拠になる。それにドラゴンのコア自体、高値で取引されているのだ。


 そして、ドラゴンのコアを回収し一旦村へ戻った俺は、直ぐに王都ムーク市へと戻るべく支度をし、村を出たのであった。




 バッチ3つの男の表情は、落胆を表していた。


「……俺が浅はかだったか」


「災難だったな。とはいえ、ドラゴンはまだここに沢山いる。追加で受け取るのだろうし、そこまで落ち込む必要はないだろう」


 バッチ1つの男がそう言う。


「ああ。しかし、ミズロン村から手を引くべき時が来たようだ。姿こそはっきり見えなかったが、あのようにドラゴンを呆気なく倒したこと考えると、≪影の兵団≫が配置された可能性もある」


「≪影の兵団≫か。聞く限りでは、最大限警戒すべき連中らしいが……。当初、派遣されていた教会の≪仮面騎士総隊≫ではないのか? 」


「まあ、強力な戦力を有する組織はいくらでもある。いずれにせよ、これ以上の襲撃はこちらの損害を増やすばかりだろう」


「なるほど。ではしばらく、我々は帝国での活動に集中することになるわけだな? 」


「そういうことだ。俺も俺で、別件でやるべきことが溜まっているし、引き際にはちょうど良いだろう」


 この日、某集団はミズロン村の襲撃から手を引いたのであった。

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