第5話


 ドラゴンの襲撃によるものか……。

 とにもかくにも、酷い有様の道をさらに進むと、複数の建物が見えてきた。まだ遠いのではっきりとは見えないが、黒く焦げているだろう建物もある。

 そして、集落らしき場所に着くと立札が立っており、ミズロン村と書かれていた。


 どうやら、ミズロン村に到着したようだ。


「ミズロン村へようこそ。冒険者の方ですか? 」


 村の入り口の付近に立っていた男が、そう声をかけてきた。


「はい。復興支援のためにやってきました」


「そうですか。では、村長宅まで案内します。そこでギルドカードと依頼票を見せてください。確認が取れたら、報酬を払うので」


 男に案内され、早速俺は村長宅へと向かった。

 村は、破壊の限りを尽くされている。残っている建物も、その全てが黒焦げになっており使い物にならなくなっているのだ。


 そんな有様な中、冒険者らしき者たちが解体作業に当たっていた。


 王立騎士団らしき者たちの姿や、この地域を管轄する街道保安官の関係者らしき姿もあった。一方で国家憲兵隊や国民衛兵軍らしき者の姿はない。

 まあ、初めから判っていることだが……。




 無言のまま、男と俺は先へと進む。

 そして男は少しばかり大きい天幕までやって来ると、そこで立ち止まった。


「ここが村長宅です」


 男がそう言って手で指し示し、中に入る。


「村長。また冒険者が来ましたんで、案内しましたよ」


 男はそう言うと、直ぐに天幕から出てきてこの場から去って行く。

 それから数秒の後、天幕の中から30代くらいの男が出て来た。


「ようこそ。ミズロン村へ。私が臨時で村長を務めている者です。早速ですが、依頼票とギルドカードを確認しますね」

 

 と、30代くらいの男が言う。

 臨時ということは、元々居た村長はドラゴンによる襲撃によって死んでしまったのであろうか……。


 ともあれ、俺はギルドカードと依頼票を鞄から取り出した。


「はい確認が出来ました。では報酬をお支払いします」


 と、村長が小さな袋を差し出してくる。


「どうも」


 俺はそう言って、その小さな袋を受け取った。

 それから俺は、細かい説明などを受けた後、滞在中に使用する居住スペースに案内された。


 小さな天幕が密集して張られている。その1つ1つの天幕に、冒険者らしき者たちの姿がある。


 スペースは極めて狭いが、雨風をある程度防げるだけで贅沢なもんだ。


 とはいえ、プライバシーや盗難などの問題を考えれば、決して良い環境とは言えないだろう。つまり貴重品など大切な物は、常に肌身離さず持って置かなければならない。


 今から、復興活動に従事するつもりはないが、村を回って見てみることにしよう。


 俺は、あくまでも表向きは復興支援のために来たわけだが、その心の内ではドラゴンがこの村を襲った理由を知りたいのだ。

 そのため、村を回って情報を得ようと考えたのである。


「やあ」


 俺は、村人らしき若い女に声をかける。


「何ですか? 」


 女は警戒した目つきで、そう答えた。


「ドラゴンがこの村を襲撃した時の話を聞きたい」


「……」


 女は何も答えず、去って行った。

 要するに、何も話したくないのだろう。


「おいっ! 」


 男の声がする。

 女と入れ違い様に、男がやって来た。見覚えがある。


「先ほどはどうも」


 と、俺は言って軽く会釈をした。

 彼は、村長宅まで俺を案内してくれた男だ。


「ナンパ目的なら、直ぐにここを去ってくれ」


 強い口調で彼が言う。

 その表情は、見るからに激しい怒りを感じさせるものだった。ナンパ目的でやって来た冒険者に、何度も遭遇したのかもしれない。こういう復興が必要な場所では、そういうことはよく起こる。


「別にそういう目的があって、声をかけたわけではない」


「じゃあ何が目的で声をかけたんだ? 」


「ドラゴンが襲撃してきた時のことが知りたいのだ」


「……あの時のことを聞いてどうする? 何が目的か知らないが、そういうことを聞くのはやめてくれよ。みんな辛いんだ」


 彼の気持ちはよく判る。

 それなのに、俺は単に気になったという理由だけでドラゴン襲撃時のことを質問しているのだ。微かに自己嫌悪を覚える。


 しかし、俺は質問を止めるつもりはない。


「ドラゴンはどの方面からやって来て、そしてどの方面へ逃げ去ったのか。それだけでも判れば、とりあえずは充分なんだがな」


「偉そうな態度を取るなよ! 」


「俺はドラゴンの行方を追うつもりだ。だから情報が欲しい。ドラゴンが、またここを襲撃しにくるかもしれないだろう? 再び、あんたの身近な人たちが犠牲になるかもしれない」


「っんだと! 」


 男がそう声を出すと、俺の胸倉をつかんだ。

 まあ、俺の言い方が悪いのは判っている。相手の気持ちなど、いちいち考えない性分だからな。


「悪いが、俺は被災者の心のケアが専門じゃないんでね。そこのところは判ってくれよ? 」


「この野郎……」


 男はそう声にだしつつも、俺を鋭い眼で睨め続け、そして深呼吸をする。

 その間、俺は何も発しなかった。


「ドラゴンは北から来て、そして北へ逃げた」


 ようやく、彼は情報を教えてくれた。事件の真相究明のため、合理的に対応してくれたのかもしれない。


「北から来て、北へ逃げたんだな? 」


「ああ。だけど、あんた1人でどうにかなるのか? それとも戦闘担当が別にいるならともかく……」


「俺のことは心配するな。そもそもドラゴンの居場所が判らなければ、どうすることも出来ないだろ。あと、カネも取るつもりはないから安心しろ」


「そうか。まあ、あんた1人死んだところで、今更気にすることもないしな。とりあえず、テキトウに頑張ってくれ」


 男はそう言って、去って行った。

 とりあえず、明日は北へ向かって散策してみよう。

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