第2話


 俺は引き受けた依頼をこなすためホウキとチリトリを買い、王都ムーク市を出て指定された街道にやって来た。


「確かに、スライムで溢れかえっているようだな」


 街道を埋め尽くす限りのスライムたち。通行を妨げる……どころではなく、もはや通行が不可能なレベルに違いないだろう。


「とっとと終わらせてしまうか」


 スライム大量発生の原因も気になるところだが、ここは魔法でも使って早いところ終わらせるとしよう。時間を無駄にして、他の冒険者たちに邪魔はされたくない。


「俺の火炎放射でも喰らうんだな! 」


 俺は、手から炎を出した。

 目の前のいるスライムたち見る見るうちにが溶けていく。もちろん魔力の消費量は半端ないが、出し惜しみをする必要はないだろう。


 俺は炎を出しながら、先とへと進む。

 焼き尽くした痕には魔物のコア(スライムのコア)が多数転がっていた。魔物のコアは、魔物ごとに形状・大きさ・色が異なるもので、魔力が込められている。


「スライムのコアでも拾うとしようか」


 せっかく倒しても、証明になるコア収拾をしなければ倒したことにはならない。

 俺は落ちているスライムのコアを広い、ガラ袋の中にどんどん入れていく。


「おい見ろよ!? スライムのコアが大量に転がっているぜ」


 面倒なことに、他の冒険者たちもやって来てしまったようだ。


「ねぇ、引きこもりのイゴルもいるんだけどぉ。1人でコアの収集かなぁ」


 と、俺に絡んでくる。

 どうやら、連中はパーティのようだ。男1人と女1人。年齢も近いものと思える。恋人同士のパーティなのだろうか……。


「1人でコアの収集をやってて悪いか? 」


「ソロじゃろくに魔物も倒せないもんな? 良かったな今日はコアが転がっていて」


 こいつらは、俺がスライムを焼き尽くしたという可能性には考えが至らないようだ。それだけ、俺に対する『引きこもり』という評価が強烈なのだろう。


 とりあえず、無視して収集を続けるとしよう。


「ちぇっ。無視しやがって」


 そう捨て台詞を吐きつつ連中も、俺から離れてコアの収拾を始めた。ここに転がっている分は全部俺が倒したわけだが、まあ良いか。


 俺は、ホウキとチリトリを使って効率よくコアの回収をする。

 周囲では相変わらずスライムたちが蠢ているわけだが、俺にとっては大したことではない。一方で俺に絡んできた冒険者パーティは、蠢くスライムたちを警戒しながら回収作業をしていた。


 それから、小一時間ほどで俺は大量のコアを拾い集めたのであった。


「まだガラ袋もあるし、もう1回焼き尽くすか」


 俺は、再び火炎放射を始める。

 焼き尽くされていくスライムたち。数こそは多いものの、単調な仕事には違いなかった。


「ああ。暇だな」


 単調故に、暇で退屈だ。

 スライムどもも、立ち向かってはこない。ただ蠢いていて、そしてただ焼かれていくだけなのである。


「ま、マジかよ……」

「そんな……スライムが可哀想」


 先ほど俺に絡んできた冒険者パーティの連中が、そう声に出す。

 まだ居たのか。全く面倒な奴らだ。


「何を見ている? コアでも回収すれば良いだろう」


 まだスライムのコアは、そこらに散らばっている。俺には構わず、それを回収すれば良いものを。


 だが、彼らはその場で立ち尽くす。


「俺のような引きこもりが、こんな技を使っているのを見て絶句しているのか? 」


 俺はイヤミ混じりにそう言った。

 そもそも俺は、周りが言うほど引きこもりの期間が長かったわけではない。


「ありえねぇだろこんなの。アンタ一体なんなの? 」


 と、男の冒険者がそう言う。

 

「ただのしがない冒険者だ」


 彼らは黙り込む。

 出会った当初とのギャップに、俺は内心面白く感じる。あれだけ人を馬鹿にしておいて、小一時間が経った今となっては立ち尽くして絶句しているのだから。


「ところで提案があるのだが……」


 俺はそう切り出した。

 彼らは尚も黙っている。だが、決して無視しているわけではないのだろう。視線は俺に向いているのだ。


「スライムのコアは好きなだけ拾ってくれて構わない。だから俺と取引をしないか? 」


「きょ、脅迫のつもりか!? 」


 男の冒険者が、怯えた表情を見せ、かつ震えた声を出してそう言った。一緒に居る女冒険者も心配そうな表情で俺を見つめる。


「脅迫のつもりではないし、そもそも勝手にスライムのコアを拾って行っても、文句を言うつもりは無い。それに、後で危害を加えるつもりもないよ」


 俺はあくまでも、相手の良心に訴えたい。


「何をしろって言うんだ」


「依頼によっては、複数人での活動を条件とするものもある。もし、俺がそのような依頼を引き受けたいときに、協力してもらいたいと思ってな」


 基本的なソロで活動するつもりだが、いざという時のためにも準備はしておくことに越したことはない。何も戦力が欲しいというわけではない。とりあえず、その手の依頼を引き受けるために必要な頭数さえ揃っていれば良いのだ。


「きょ、協力って何をしろって言うんだよ」


 尚も、男の冒険者は声を震わせて、そう言う。


「そう怯えるな。俺としては、そういう類の依頼を一緒に依頼を引き受けてくれれば良いだけなんだ。もちろん体裁を保つために、依頼を達成するであろう場所付近までは同行してもらうことになるがな」


「……それなら……」


 ようやく男の冒険者は承諾してくれたようだ。


「ちょ、ちょっと待って! そんなのごめんなんだけど」


 だが、女の冒険者が騒ぎ出した。

 俺の提案は決して悪いものでは無いはずだが、何か不満でもあるのだろうか……。


「何が不満なんだ? 」


「騙そうと思っても無駄。今ここでスライムのコアを拾わせてくれる代わりに、今後一生無償でアンタに付き合えって魂胆なんでしょ! 」


 なるほど。

 どうやら俺は、言葉足らずであったようだ。


「いや、当然報酬は人数ごとに山分けしようと思っているのだが? 」


 仮に3人で行動し成功報酬が金貨100枚でなら、1人当たり金貨33枚程度になる。


「えっ……ホント!? 」


「ああ。もし気が乗るなら、是非協力してくれ。協力する気が無くても、スライムのコアは自由に拾ってくれて構わないよ。王都ムーク市の支部には今後頻繁に顔を出すつもりだから、声をかけてくれ」


「……ありがとう。ほら、ユウもお礼を言いないよ」


「あ、ああ。ありがとな」


 まあ、2人にとっても悪い話しではないはずだ。ちょっと協力してくれれば、それでカネを得られるのだから。


「じゃあな」


 俺はそう言って、スライムのコア回収作業を続けたのであった。

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