第3話


 複数のガラ袋を手に、俺は冒険者ギルドに戻って来た。

 周囲の冒険者たちの視線を感じる。まあ、引きこもりにして無能と言うレッテルを貼られている俺がこんなにもガラ袋を持っていれば、怪しむのも仕方ないだろう。


 だが俺はそんな視線など無視して、ギルドの受付へと向かう。


「イゴルさん。お帰りなさい」


 と、受付嬢ヒルダが愛想よく声をかけてきた。


「とりあえず、精算を頼む」


 俺はそう言って、複数のガラ袋をカウンターの上に置いた。

 すると、受付嬢ヒルダは驚いた表情を浮かべる。


「い、イゴルさん……!? どうやってこれを? 」


「少なくとも違法な手段で手に入れたわけではないし、依頼の趣旨に反してはいないはずだ」


 違法な手段とは、例えば盗みや略奪などが挙げられる。そして依頼の趣旨というのは、つまり実際にスライムを倒したかどうかということだ。


「……そうですか。とりあえず精算をしますが、少々お時間を頂きますね」


「わかった」


 まあ、あれだけの量である。

 精算に時間がかかるのは致し方ないことだろう。

 

 俺は時間を潰すために、テーブル席に座り軽食を注文した。

 

 それから2時間ほどの時間が経過した。既に注文した軽食は食べ終わり、尚も暇つぶしのために新聞を読んでいる。


「イゴルさん」


 と、受付嬢ヒルダが近づいて来た。


「精算は終わったのか? 」


「はい。直ぐに受付カウンターまでお越しください」


「わかった」


 俺はそう言って新聞を折りたたんだ。ようやく精算が終わったようだ。かれこれ2時間程度は経っている。


 ともかく、受付カウンターへと向かった。


「で、どのくらいの額になったんだ? 」


「はい。金貨62枚になりました。かなりの儲けですね。まあ、精算係の人は大変そうでしたけど……」


 金貨62枚か。

 つまり、スライムのコアを6000枚程度は回収したことになる。だが、スライムのコアはまだ散らばらっていたし、もしかしたら1万匹は軽く討伐しているかもしれないな。


「それはすまないことをさせた。金貨2枚を担当の精算係に渡してくれ」


 俺は受け取った金貨62枚の内、2枚を受付嬢に渡した。


 まとまったカネを手に入れたのだ。少しくらいは、担当者にくれてやっても良いだろう。


「よろしいのですか? 」


「ああ」


「……わかりました。担当に渡しておきますね」


「よろしく」


 俺は、そう言って冒険者ギルドを後にした。

 金貨60枚も手に入ったのだ。これだけあれば、数カ月は働かなくとも生活できる。もっとも俺は月に一度まとまったカネが入るので、遊びや嗜好品に使ってしまっても問題ないが……。




 数日が経過した。

 俺はその間もテキトウに依頼をこなして、平均して1日当たり金貨2枚程度の稼ぎ得ていた。ソロ活動初日に得た金貨60枚に比べれば明らかにに少ないが、決して悪くはない。


「今回は、この依頼を受けようと思う」


 俺はそう言って、依頼票を受付嬢ヒルダに手渡した。


「イゴルさん……。確かにこの依頼はF級冒険者でのソロ活動は可能となっていますが、流石に危険ですよ? 」


 と、受付嬢ヒルダが心配する。

 まあ、彼女が心配する理由も確かに判らなくはない。


「ドラゴンによって襲撃された村の復興活動の手伝い。依頼自体に危険性はそこまでありません。しかしドラゴンが襲撃したということは、まだ付近にドラゴンがいるかもしれないのですよ? 私は反対です! 」


「なるべく気を付けるから、早いところハンコを押してくれないか? 」


 他にもF級冒険者向けの依頼はあったが、個人的に、ミズロン村で起こったことに興味を持っため、この依頼を引き受けることにした。


 まあ、依頼を受けずともミズロン村へ行っても良いのだが、この依頼は報酬が都合よく設定されているのだ。とりあえず依頼を引き受けて現地に行くだけで、金貨5枚の報酬を得られるのである。


 さらに、滞在中に実際に復興活動を手伝えば、銀貨30枚の日当がもらえるのだ。

 また、滞在中には最低限の衣食住も提供されることになっている。


「私は何度もルーキーたちの不幸を見てきています。順調な日々が続いている時こそが、一番危険なのですよ? ほんの少しだけ傲慢になって、そして死んでいくのです」


「良いから早くハンコを押してくれ」


 しつこすぎる。

 少なくても俺は、この冒険者ギルドでは悪口の対象になっている身だ。それなのに、どうして彼女はここまで俺を心配するのだろうか……。

 

 むしろ俺は、そんな彼女を鬱陶しく感じた。


「イゴルさん。ここ数年、多くの冒険者が何者かに殺されているんですよ? そういう意味でもソロは危険なんです。冒険者大会(・・・・・)も近いですし……」


 イライラさせてくれる。


「良いから」


 俺はそう言うと、ようやく彼女は依頼票にハンコを押した。

 それから、俺は冒険者ギルドを後にしたのである。

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