第十四話、カルロ視点

 その日の夜、俺は外の空気をう為に外へ出ていた。まちから離れたこの場所の空気はとても澄んでいて、星空も綺麗きれいだ。思わず心から安心する。

 そんな時、背後はいごから誰かが近付いてくる気配けはいがした。この気配は、アリサか。

「カルロ、こんな夜中よなかにどうなされたのですか?」

「少し、考えをまとめておきたくてな。外の空気を吸う為に出ていた」

「そう、ですか……」

 アリサは何を勘違かんちがいしたのか、少しだけくらい表情をした。

 そんな彼女に、俺はそっとみを向けた。

「大丈夫だ。別に、アリサに言った事はうそじゃないさ。今更反故にしたりなんかしないから安心しろ」

「はい、ありがとうございます」

 そう言い、隣に立つアリサの肩をそっと俺はき寄せる。別に、俺は鈍感でも何でもない。アリサの好意こういくらい、とっくに気付いている。その好意の理由もおおむね察しが付いている。

 アリサは今まで、俺の父さん以外に心からしんじる事が出来なかったという。そして父さんが王城からいなくなって以来、信頼出来る人間ひとなんて一人として居なかったのだろう。だから―――

 だからこそ、アリサはあの時、盗賊に捕まった時に本当に絶望ぜつぼうしていた筈だ。

 そんな絶望の中、女としての尊厳そんげんすら踏みにじられようとしていた。そんな中でアリサを助けたのが俺だった。

 きっと、アリサとしては信頼しんらいを寄せられる相手が。心をゆるせる相手が初めて現れたように感じたのだろう。

 きっと、心からり掛かる事のできる相手が現れたように感じたのだろう。

 ……果たして、俺はそんな彼女かのじょの事をどう思っているのか?果たして俺はそんなアリサの想いにこたえる事が出来るのだろうか?そんな事を、俺は考えていた。不安に感じていたと言っても良いだろう。

 果たして、そんな俺をどう思っていたのか?アリサがそっと俺へと身体を寄せて寄り掛かってきた。

 目と鼻の先に、アリサの顔が。思わず、ドキリとしてしまう。

「大丈夫ですよ。所詮、これは私のわがままですから。私がカルロにれてしまっただけでしかないのですから。貴方がそれでなやむ事は無いのです」

「それは……」

「ごめんなさい。私のわがままに貴方まで付き合う事は無いのですよ?」

 ……ああ、そうか。

 俺は、ようやく納得なっとくした。ついさっきまで悩んでいたのがうそみたいだ。

「それは、ちがうよ」

「え?」

「俺は、きっとアリサに振り回されるのがきなんだ。アリサのそれがわがままだというなら、俺はそのわがままにもっと振り回されていたいんだと思う」

「カルロ……」

「俺も、きっとアリサの事が大好だいすきなんだと思うよ。だから、もっとアリサも俺の事を振り回してくれてかまわない」

「……っ、はい。どうか、今夜は存分に私をあいして下さい」

 そう言って、アリサは俺の胸にき付いてきた。

 ああ、そうだ。俺はそんなアリサの事が大好きだったんだ。

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