第十一話、にゃ、にゃんで此処に王女様が?

 僕とカルロがあわてて家に入ると、其処には王女様の姿すがたがあった。カルロはその姿を見て呆然ぼうぜんとしている。僕も、当然呆然としている。

 何故なぜなら、王女様はまるで町娘まちむすめのような質素な姿で家の中に居たからだ。

 いや、そんな事はこの際どうでも良い。今、重要なのはべつだろう。

「にゃ、にゃんで此処ここに王女様が?」

「……先程はたすけていただきありがとうございました。まず先におれいを言わせて貰いたいです」

「は、はぁ……じゃなくて!どうして王女様が俺の家に居るんだ⁉」

 思わず、といった具合でカルロは怒鳴どなる。だが、それも無理むりはあるまいと僕は思っている。何故なら、今此処に王女様が居るこの状況があきらかに変だ。どう考えてもおかしいと思う。

 何故なら、つい先程国王からカルロの父親のおもいを聞いてその上で家に帰されたのだから。つまりそれは国王から暗にこの件にかかわるなと言われていたという意味に違いないだろう。

 なのに、それにもかかわらずだ。カルロの家に王女様が居る。これの何が変かというと関わるなという案件自らカルロのもとに来ているという事に他ならないだろう。

 一体、どういう事だ?

 そしてカルロの質問に、当の王女様は頬を僅かにめてそっぽを向いた。その姿はまるで恋する乙女おとめのようで。というか、そのまんま恋する乙女の表情で。

 そんな王女様を見た僕とミーナは呆然ぼうぜんとしてしまった。

「……実は、その件に関してお父様から伝言でんごんを預かっておりまして」

「で、伝言……?」

 カルロのたじろいだ声に、王女様はうなずいた。

「はい、あんなかえし方をした後で頼むのは恥知はじしらずだがどうか一人の父親として娘をよろしく頼む……と」

「は、はぁ……そうです、か」

「それで、私も出来る事ならカルロ様のそばに居たいと思っておりまして……」

「えっと、それは一体どういう事だ……ですか?」

「……………………」

 カルロの問いに、王女様はこたえない。顔を真っ赤に染めてうつむいてしまった。

 これはもう確定かくていしているだろう。そう、王女様はカルロに命を助けられた事でカルロにれてしまったのだろう。そして、国王もそれをさっしていたからこそ王女様を守って欲しいという名目でカルロに寄越したのだろう。

 それを察したのはどうやらミーナも同じようで。ミーナは口の端を引きらせて微妙そうな表情をしていた。

 そして、当のカルロもどう反応はんのうしたものか考えあぐねているようで。同じく口の端を引き攣らせていた。うん、其処は兄妹だな?

 とはいえ、僕だってどう反応したらいいのか分からないのは同じだけど。

 そんな中、王女様はそっとカルロの目と鼻の先まで近寄ちかよりそっとささやくように耳元で告げた。猫獣人の高性能な耳が、その言葉をはっきりとき取った。

「どうか、これからよろしくおねがいしますね?私の勇者ゆうしゃ様」

「え?あ、ああ……」

 突然の発言に、カルロはうろたえてそう言う事しか出来できなかった。

 うん、えっと……まあがんばれ?

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