第八話、王女様視点

 荒縄で身体をしばられ、さるぐつわをまされて私は盗賊達に運ばれていた。

 けど、この盗賊達がただの野盗やとうの類だとは流石の私でも思っていない。恐らくこの盗賊達は奴が個人的にかかえている盗賊団にちがいない。奴はこういった汚れ仕事を抱え上げの盗賊団にさせているとく。

 けど、あくまでそれもうわさ話でしかない。信頼性のける話だと誰も信じていない与太話として信じられていた。

 だけど、こうして実際に目にすれば。そして実際に体験たいけんしてみればなるほどと思わなくもない話だった。

 今、この状況でわざわざ私をさらいに来る盗賊団なんてるものですか。

「んぐぅっ⁉」

 運ばれた洞窟の中、私は荒っぽくほうり投げられた。実に乱暴極まりない、私を一国の王女ではなくただ攫ってきただけの小娘こむすめとしか思っていないのだろう。悔しくて涙が出そうになる。

 けど、それを寸でで我慢がまんする。そんなもの、プライドがゆるさない。

 盗賊達をなけなしのプライドをかき集めてにらみ付けるものの、それを当の盗賊達は意にもかいさない。どころか下卑げびた笑みで見てくる。心胆寒からしめる、欲望の詰まったような目だった。

「頭あ、この王女様は後であの方にし出すんですよねえ?」

「ああ、そうだな。後で必ずやつに差し出さなくてはならない。そういう契約になっているからな」

「へへっ、じゃああの方に差し出す前にちょろっとだけつまみ食いしてもよろしいのですかい?」

「…………本来は駄目だめなんだろうがな。まあ良い、すこしだけだぞ?」

「へへへっ……」

 ぞっとするような悪意にちた笑みでこちらを見てくる盗賊の一人。明らかに私を自身の欲望のはけ口にしようとしている目だった。

 そんな目に気圧けおされて、私は涙をにじませながらなんとか下卑た盗賊から距離を取ろうとする。けど、そんな必死の抵抗ていこうすらこの下卑た盗賊にとって欲望を掻き立てる為の一要素でしかないのだろう。

 更に嗜虐心に掻き立てられたような顔をしてこちらへめ寄る。

「んんっ⁉んーーーっ‼」

「へへっ、げるなよ王女様?へへへっ」

 私の心が絶望ぜつぼうに染まってゆく。

 そして、そのまま盗賊が私にみ付いてきた。その瞬間……

「ぎゃあっ⁉」

「な、何だあ⁉」

「だ、誰だ貴様はっ‼」

 盗賊の一人が切り倒され、くずれ落ちた。其処に立っていたのは、先程私を門前払いして追い払った筈の勇者様。確か、名はカルロだったか。

 その勇者様が私に組み付いている盗賊の姿すがたを見て、いかりの表情を更に深める。

 そんな勇者様に、盗賊団の頭は僅かに笑みをらす。

「お前がカルロだな?お前もさらってくるリストに入っている。少しばかり大人しくしてもらうぞ?」

「やれる物ならやって見ろよ」

「そうさせて貰おう」

 そうして、次々とおそい掛かる盗賊達。さっきまで私に組み付いていた盗賊も、口惜しそうにしながらもそのまま勇者様へ襲い掛かった。ざっと見て盗賊の数は十数人くらいは居るだろう。

 けど、そんな盗賊達を相手に勇者様はそれでも余裕よゆうを見せて戦っている。だがそんな勇者様を相手にも頭と呼ばれた盗賊は謎の余裕を表情ににじませている。明らかに何か企んでいるのは間違いない。

 そんな時、物陰にかくれていた盗賊の一人が勇者様の背後はいごを取ってそのまま剣を振りかぶり襲い掛かる。あぶないっ!

「危ないにゃっ‼」

 そんな勇者様の危機を、一匹のケットシーが木製の棍棒こんぼうで救った。木製の棍棒で殴られた盗賊は、そのまま昏倒こんぼうして倒れた。

 ケットシーは盗賊を相手にしながら、勇者様に叱責を飛ばす。

「カルロのいかりも理解出来るにゃ!けど、今はち着いて対処するにゃ!でなきゃ敵の思うつぼにゃ!」

「……分かった」

 そうして、一人から更に一匹増えた事で余裕をり戻したのか勇者様は更に盗賊を倒してゆく。そんな勇者様とケットシーを相手に、流石さすがの盗賊の頭も表情に焦りを見せ始めた。

 そして、そうこうしている内に盗賊団は壊滅かいめつ。残るは頭一人に。

「……くっ。此処ここまでか」

「さあ、観念かんねんしろ」

「もはや此処まで。なら、素直に撤退てったいさせて貰う!」

 何か、白い玉のようなものをにぎり締め盗賊の頭はそれを地面にたたき付けた。その玉はどうやら煙幕えんまくだったらしく洞窟内は白煙に包まれていく。

 何も見えない中、誰かの足音がとおざかってゆくのがこえた。

「くそっ!何も見えない!」

「煙幕にゃ!ごほっごほっ!」

 そうして、やがて白煙がれてゆく。すると、其処には盗賊の頭はおろか盗賊達の姿さえありはしなかった。

 どうやら全員もろともげたらしい。

 ほっと一息つく勇者様。けど、それもつかの間だった。

 複数人の足音が響き、そのまま駆け付けた騎士複数人と一人の青年。

 その青年の顔を私は知っていた。私の兄、アル=グラン=アリシエルだ。

 兄は場の状況をじっくりと見た後、やがて騎士達に一つの命令めいれいを下した。

「其処の男とケットシーをらえろ」

「はっ!」

 どうやら、すこしばかり面倒めんどうな事になってしまったらしい。そう思ったけどさるぐつわを噛まされて縛られている私には何も出来できなかった。

 勇者様とケットシーには、後であやまっておこう。そう、私はちかった。

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