第七話、交渉決裂にゃ?

かえってくれ」

 王女様が名乗なのりを上げた直後、カルロは僅かにけわしい表情で突っぱねた。

 その姿に僕とミーナは少しだけおどろいた。カルロとのき合いは短いが、それでもカルロが優しく心遣こころづかいのできる人間であることを僕は知っている。だが、それでも今のカルロは本気で王女様を門前払いする気のようだ。

 訳の分からない僕達。特に、いきなり帰ってくれと言われた王女様は何処か納得出来ない様子でい掛けた。

「一応、理由りゆうを聞いてもいかしら?」

「理由だって?お前達王族は、父さんと母さんをいきなり有無も言わせず追放ついほうしたじゃないか。それで理由もくそもあるものか」

「兄さん、それは一体どういう事?」

「……お前はまだおさなかったから知らないだろう。俺だってまだずいぶんと小さかった頃の話だからな。大体十年近く前か、当時父さんは王国おうこくでも名高い騎士きしだった。それこそ単独で敵国の侵略戦争からたみを守り抜いた程だった」

 その言葉に、流石に何か思い当たったようで王女様は目を見開みひらいた。

「貴方、ガルシアの息子なの⁉」

「そうだ、そしてお前達王族が俺達を追放した為に俺達はこんな山奥やまおくでひっそりと暮らす羽目はめになったんだよ」

「そ、それはちがうわ」

「何がちがうものか。帰ってくれ、俺達はもうお前達の姿すがたを見たくもないんだ」

 取り付くしまもないとはこの事か。王女様はそのままとぼとぼとカルロの家から出ていってしまった。最後に見せたその表情かおは、少しだけさみしそうだった。

 それを見たミーナは、慌てて王女様をいかけてゆく。

 カルロは近くにあった椅子いすに力なくもたれ掛かる。そんなカルロに、僕は恐る恐ると声を掛けた。

「……本当に、良かったのかにゃ?王女様、っちゃったにゃ」

「……………………」

「王女様、何かわけを知っている風だったにゃ。理由くらいは聞いても良かったんじゃないかにゃ?」

「……ああ、そうだな。すまない、少しばかり感情的かんじょうてきになり過ぎた」

「そう思うなら、今からでもおそくはないから行った方が良いんじゃないかにゃ?まだきっとに合う筈にゃ」

「……無理むりだよ。俺はそんなに出来できた人間じゃないから。きっと会えばまたカッとなって感情的になってしまう」

「……………………それでも、あの王女様はきっとカルロの事を」

「た、大変‼兄さん、兄さん‼」

「「⁉」」

 僕とカルロの許に、慌てた様子でミーナがけてきた。ミーナはとても慌てた様子で一枚の手紙を手にカルロへと駆け寄る。どうやら、何か大変たいへんな事が起きたようで彼女の表情にはあせりが浮かんでいた。

 そんなミーナの姿に、流石のカルロも何かあったとさっしたらしく問い掛ける。

「何かあったのか?ミーナ」

「い、いきなり盗賊とうぞくの集団が現れて。王女様をれ去っていったの。その盗賊の一人が兄さんにこれを渡すようにって、この手紙てがみを」

 カルロは手紙を受け取ると、やがてその手紙をぐしゃっとにぎりつぶして外へと駆け出していった。その時のカルロの表情は何と表現した物だろうか?鬼気ききとした迫力を感じる傍ら焦りのような物も感じる事が出来た。

 そんなカルロの姿に、ミーナはおろおろとしている。

「僕も、付いていくにゃ」

「え?ダ、ダム⁉」

 ミーナの驚愕きょうがくする声。だが、僕はそんな彼女を一切見る事なくそのままカルロを追いかけていった。

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