閑話、その頃……

 その頃、本部神殿のおくにある一室にて……

「何?それは本当ほんとうか?」

「はい、町の神殿しんでんの前でケットシー族と王女がはなしているのを大勢の者達が聞いていました。恐らくは間違まちがいないかと思われます」

 男の言葉に、部屋の奥に居る司祭しさいの衣装を身にまとった何者かはほくそ笑んだ。

 司祭の男はかげになって顔は良く見えないが、非常に体格が良く身長も高い。そして表情は良く読めないが、暗闇でも爛々と輝く赤い瞳はわらっているように見えた。

 その眼光に冷や汗をかきつつも、男は司祭にう。

「どうなされますか?」

無論むろん、打って出る。丁度いい、あの町のちかくにはあいつ等が居た筈だ。あいつ等を動かすとしよう」

「っ⁉今動くんですか?国王こくおうに目を付けられますよ?」

「構わんさ。どの道早いか遅いかのちがいでしかない」

「……では、そのように」

 そう言って、男は部屋からっていく。部屋で一人になった司祭は誰も居ない部屋の中くつくつと笑みをこぼす。

 その笑い声は、見る者が見れば邪悪極まりなかっただろう。それほどまでに男の笑みは怖気おぞけの走る冷たいものだった。

「……そうだ、所詮は早いか遅いかの話でしかない」

 ———所詮、全ては俺が制圧せいあつする為の盤上遊戯でしかないのだから。

 そう、アリシエル教の司祭と銘打ってはいるもののこの男、実際は何処までも欲深く悪意に満ちていた。

 アリシエル教とグラヌス教の双方に密接みっせつに繋がり、長年双方の敵対関係をあおってきたのがこの男だった。

 それというのも偏にこの世界を掌握しょうあくする為。そして、この世界の全てを一つの盤上として遊び尽くす為に。男は極限な搾取さくしゅと暗躍を繰り返していた。

 男は狂っていた。狂気きょうきに身を浸し、それでいながら確かな理性りせいを以って正確に駒を動かしてめてゆく。

 それに、例えこのさくが失敗したとしても問題もんだいは無かった。例え、実行犯達が全員捕らえられようとも司祭である自分には絶対にとどかない。既に手は打ってあった。

 更に言えば、例え不信感をいだかれようと証拠を残すようなヘマは絶対にしないだろうと踏んでいる。穴などありはしない。

 例え、穴があったとしても。そしてその穴から自分に目がくような事があってもそれはそれだろう。所詮は司祭にとって全ては盤上遊戯でしかないからだ。

「……まずは手始めに王女と勇者を手中におさめよう。二人を我がに忠実に従う人形としてくれる」

 そして、其処から世界をじっくりとみ込んでいくとしよう。人類を、世界を、そして光と闇の神を……

 文字通り全てを呑み込んで掌握しょうあくしてしまおう。決してりこぼしなどしない。

 そう、司祭はこの世に誕生たんじょうしたその時よりちかっていた。

 そう、この司祭こそが全ての特異点とくいてんなのだから……

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る