第五話、王女様にゃ?

「えっと、だれかにゃ?」

「……貴方、私の事を知らないの?」

 知らない。少なくとも、僕の知り合いにこんな豪奢ごうしゃなドレスを着ているような人物は一人も居なかった筈だ。というより、そもそも人間ヒトの知り合い事態ごくごく僅かなわけだけれども。もちろんそれは言わぬが花だろう。

 しかし、本当に誰だ?この少女は自分ぼくの事を知っていて当然のように語っていたようだけれども。つまり、この少女しょうじょは広く人にられている身分の人物という事になるだろう。まあ、それなら豪奢なドレスを着ている事に納得が出来る。

 けど、だとすれば護衛ごえいの一人も付けていない事に説明が付かないけど。

「知らないにゃ。本当に誰かにゃ?」

失礼しつれい、私の名前なまえはアリサ=グラン=アリシエル。このアリシエル王国の王位継承権第二位の王女おうじょよ」

 ……えっと、王女様?

 それにしては、随分ずいぶんとまあフリーダムな雰囲気ふんいきを感じる。というより、護衛は?

 何処かに護衛でも隠れているのか?

「えっと、王女様にしては護衛の姿すがたが見えないにゃ」

「護衛?あんな奴等やつらは王城を抜け出す際にいたわ」

「撒いたにゃ⁉」

 驚いた。素で驚いた。この王女様、お転婆てんばすぎる。

 フリーダムすぎる。え?マジで撒いたの?王族が?そとを出歩く為に?

 混乱こんらんしすぎて、思わず目の前の王女様をガン見してしまった。

「それより貴方、今何て言ったの?私の聞き間違いでなければ其処の神殿しんでんに飾られている旗と同じ紋章を手の甲に宿やどした人が居るって聞いたけど」

「……うにゃ、王女様は何かっているにゃ?」

「……そうね、まずはその件から―――」

「見つけましたよ!姫様ひめさま!」

 王女様がはなそうとした瞬間、遠くから声がひびいた。

 見ると、お城の近衛騎士とも思える何者かが複数人でこちらへけてくるのが遠目に見えた。どうやら王女様をれ戻しに来た騎士達きしたちのようだ。

 その騎士達の姿を見て、王女様はうげっと表情をゆがめた。

げるわよ!」

「え?何で僕まで!」

いから、早く!」

 そのまま、僕は王女様に腕を引っ張られてそのまま騎士達といかけっこをした後に撒く羽目はめになった。

 ……本当に、どうしてこうなったのか?自分には理解出来る気がしなかった。

 ・・・ ・・・ ・・・

 そうして、ようやく騎士達を撒いた僕と王女様。現在、町の路地裏ろじうらだった。

「何で、何で僕まで逃げ回る羽目になったのにゃ?」

「良いじゃない。それくらい。それより、私は貴方から女神めがみの紋章を宿した人の情報を聞く必要ひつようがあるのよ」

「……もう、いっその事実際にってみるにゃ?」

「良いの?」

「もう、その方が一番手っ取り早い気がするにゃ……はぁ」

 もう、数年分はけた気がする。やっぱり気苦労はそうそうするべきではない。

 そう、僕は心の奥底にきざみ込んだ。全く、面倒めんどうだ。

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