第三話、恩は返すにゃ

 ぐぅ~っ……

 盛大にり響いた腹の音で、場は静寂にたされた。二人の視線は僕の方をじっと向いている。ああうん、そう言えば何もべていなかった。

 お、思い出したらとてもおなかがすいてきた……

「……に、にゃ。そう言えば猪にどつかれたのと一緒に空腹くうふくとでぶっ倒れたのを忘れていたのにゃ」

 は、腹へったにゃ……

 そう、切なそうにはらをさする。うん、分かっている。かなり厚かましい事くらいは嫌になるくらいに分かっているから。そんな目でじっと見るのはして欲しい。

 しばらく痛々しい沈黙ちんもくが流れた。その後、やがてえ切れなくなったのかカルロとミーナは吹き出して盛大にわらった。う、ううむ?何と言うかそんなに笑われるような事なのか?

 だが、言っている場合ではない。腹がすいてもう限界げんかいなのだ。

「……そうだな。そろそろ昼食ちゅうしょくにするか。俺達もはらがへってきた所だしな」

「そうね、ダムと一緒に昼食を食べましょう。たまにはわいわい食べるのもありかもしれないしね」

 そう言って、僕達は一緒に昼食を食べる事にした。

 ……ちなみに、昼食は猪肉ししにくと野菜炒めだった。空腹も相まって、かなり美味しかったと追記ついきしておく。

 ・・・ ・・・ ・・・

「にゃ!そう言えばカルロが僕をたすけた時に使っていたけんは一体なんにゃ?刀身がぴかぴか輝いていたし、手の甲に紋様もんようのような物が浮かんだと思ったら突然手元に剣が現れたのにゃ」

「ああ、あの剣か……」

「兄さん……」

 僕の発言に、カルロは一瞬だけけわしい顔をした。ミーナも、心配そうな視線を兄に向けている。何か、発言をあやまったか?

 そう思ったが、どうやら話してくれるらしくぽつりぽつりとカルロが少しずつ話し始めた。

「あの剣に関しては俺達は何もらない。俺がおさない頃、気付けばこの手の甲の紋様と共に突然現れたんだ。ただ、その紋様もんようを知っているらしい父さんは何も語らないまま少し前に事故で母さんと一緒にくなった」

「うにゃ、わるい事を聞いたにゃ」

「良いよ、別に。ただ、本当にその剣は何だろうね。兄さんに変なのろいでもかかってなきゃ良いんだけど」

「ああ、そうだな。でも不思議ふしぎとこの剣が呪いとは無関係むかんけいな気がするんだ。あくまでも俺自身の感覚かんかくだけど。この剣を出せるようになって以来、病気や怪我とは無縁の身体になったし」

「でも、私は心配だよ。もし兄さんがその剣が原因げんいんで死んだら。私……」

「ミーナ……」

 ……ふむ。僕が思うにこの二人、お互いをかなり心配しんぱいしているようだ。

 其処はやっぱり兄妹だからこそ互いの身をあんじているのかもしれないけど。でもやはり此処は僕が何かするべきかもしれないな。

 やっぱり、助けてくれたおんもあるし。

「分かったにゃ。僕も何か手伝てつだえることがあったら手伝うにゃ」

「何?」

「助けて貰った上に食事までめぐんでもらったにゃ。恩はかえすにゃ」

「……ダム。でも、本当に良いの?」

いにゃ良いにゃ。むしろ此処ここで恩も返さずにさようならなんて虫が良すぎると僕は思うのにゃ。これからは、カルロとミーナは僕のあるじにゃ」

「「………………」」

 僕の言葉に、何か思う事があったのか二人は思わず苦笑くしょうした。

 だが、結局僕の言葉に反論はんろんする事は無かった。

 やっぱり、其処は二人ともやさしいのだろう。

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