第一話、出会いましたにゃ

 たびに出た、とはいっても先立さきだつものはやっぱり必要な訳で。というより旅に出る時に何も持ってこなかったのはやっぱりいたかったと思う。

 うん、今現在絶賛空腹中です……

「腹、へったにゃ……」

 空腹を訴える腹をでながら、僕はよたよたとあるく。何処をに見渡そうと目の前には丘と山が広がるばかり。実に殺風景な景色けしきだ。しかし、そろそろ食べ物を入手しないと空腹で餓死がししてしまう。

 果たして、何か無いものだろうか?そう思っていた僕の目の前に、綺麗きれいな池がぽつんとあった。池には美味しそうなさかなが何匹もおよいでいるのが見える。

 じゅるりっ、と僕は思わず生唾なまつばを呑み込んだ。

 ……数分後、池の魚と格闘した後ようやく二匹くらいの魚を手に入れた。

 釣り竿などありはしない。素潜りで魚をつかまえたのである。

 近くにある木の枝をかき集め、何とか火を起こす事に成功せいこうした。起こした焚き火で魚を焼き始める。うん、良いにおいが漂ってきた。そろそろ良いかな?そう思っていたのだが、少しばかり匂いが強かったらしい。

 がさがさっと草木をかき分けて野生の猪が現れた。

「にゃ、にゃあ……」

 あ、これ明らかにヤバイ奴だ。そう思っていた、その時……

 猪が地面を蹴り、そのまま猛烈もうれつな突進を仕掛しかけてきた。その突進により、僕は跳ね飛ばされて地面を転がる。地味じみに痛い。

 さ、魚……僕の、焼き魚が……

 目の前には、僕が焼いた魚をさも美味そうに捕食ほしょくする猪の姿があった。

「ぐ、ぐぅ……くやしいにゃ。悔しいにゃ……」

 腕を猪に向かって精一杯伸ばすが、それでもとどかない。猪に跳ね飛ばされた身体は空腹も相まってちっとも動いてはくれない。

 あまりの悔しさに、僕は涙を一筋流して……

 そんな時、

「……何だ、この状況じょうきょうは?」

 そんな時、一人の人間が。人間の青年せいねんが現れた。その青年は地面に倒れ伏す僕を一目見た後で、猪に視線をうつす。

 どうやら今一つ状況をみ込めていないらしい。そんな中、猪が青年を視界に収めて再び地面を前足でり始める。そして、やがて猪は青年に向かって猛烈な勢いで突進を始めた。

 ……だが、その突進が当たる瞬間しゅんかん

「ぶごおっ⁉」

 突然、猪は何かにはじかれたように背中を下向きに地面に転がった。青年の手には何時の間にか一振りのけんが握られている。

 見事な装飾そうしょくの施された、かがやく刀身を持つ剣。

 何が起きたのか理解が出来ない。けど、僕には見えていた。青年の手のこうに何か文字のような紋様もんようが輝いたと思った瞬間に青年の手に剣が現れた。

 青年は、その剣を用いてそれはもう見事なカウンターを猪にめたのだ。

 青年が剣を構えるその姿は、とても美しくて。思わず空腹をわすれるくらいに見惚れてしまっていた。だが、空腹は空腹。気付きづけば、僕は猪から受けたダメージも相まってそのまま意識をうしなってしまった。

 ……うん、どこまでも格好かっこうがつかないにゃ。

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