第二話

 僕は天邪鬼あまのじゃくが来てからぐっと生活が良くなった。なんでも宝石を売ってお金にしてるのだとか。何でおになのに怪しまれないのだろうと思ったらなんと……この天邪鬼あまのじゃくは大人に化ける呪文じゅもんまで持っていたのだ。でもだとすると僕たちは生活保護せいかつほごからはなれてしまう。どうすれば?? このかせぎだとさほど生活保護せいかつほごと変わらない。


 「ふふん。天邪鬼あまのじゃく別名べつめい山彦やまびこ。だから人間の声を真似まねることができるし、人間にける事も出来るよ。あ、あとこれ住民票じゅうみんひょう戸籍謄本こせきとうほん


 なんとこの天邪鬼あまのじゃく九鬼一家くきいっか親戚しんせきになっている! 令一れいいち住民票じゅうみんひょうなどをふくろの中にもどした。


 「鬼界きかいの力を使えばこんなもん。本当……人間が作るセキュリティーってがばがばだよな」


 恐るべし、鬼界きかいの力。


 「で……だ。実は君を鬼界きかいにご招待しょうたいしようと思ってね? 本当に僕がおにかどうかうたがってるでしょう?」


 「そりゃそうだよ!」


 令一れいいち呪文じゅもんとなえるとなんと空間にれ目が生じた。


 「さ、行くよ!」


 手をつないでいった先は……!


 なんか和風時代劇わふうじだいげきのセットような世界だ。ん? てよ? でも現代日本の服を着ている人も居るしスマホも持ってる人もいるな。それに家の上にあるパネル。あれ、太陽光たいようこうパネルじゃね?


 ん? 後ろの空間のれ目が消えている。そしてそれをだれもこの町の住民はおどろかない!


 「どう? おどろいた? 僕たち天邪鬼あまのじゃくはね……現代の文明・文化をパクってきたのさ」


 そして城門じょうもんを開ける。そして謁見えっけんの間にまでやって来た。


 女王の名前はアマノサグメだ。なんか乙姫様おとひめのようなお姿だ。占いの神様だという。ひたいには二本の小さい黄色の角が出ている。皮膚ひふも赤い。この方が天邪鬼族あまのじゃくぞくの女王にして女神なのだという。


 「貴方あなた九鬼洋一くきよういちと言うのですね。私の名はアマノサグメと申します。占いの女神で国津神くにつかみというグループの神様に所属しょぞくします」


 「はい」


 「私はこの水晶玉すいしょうだまとおして日本を見て思ったのです。今の日本はみんな同じ方向を向いてまたほろびようとしている。そんな国の滅亡めつぼうをこの国の女神として見ていられません。ぜひ、力を貸してください。もちろんあなたにはもっといい生活を保障ほしょうしましょう。令一れいいち、ぜひ彼を守ってください」


 「はっ!」


 「潜入せんにゅうに抜かりはありませんよね? 住民票じゅうみんひょうなどは取りましたか?」


 「問題ございません。こちらに」


 令一はふところから住民票じゅうみんひょう戸籍謄本こせきとうほんが入っている袋を取り出し……うやうやしく女王に差し出した。



 宝石を売る数が増えていった。そしていよいよ役所の人が来てこの家庭の生活保護せいかつほごが外れる。もう自分たちは役所の許可きょかなく自由にお金を使っていいのだ。令一はこの時大人に化けていた。どこにでも売ってそうなファストファッションで身をかためたえない二十代後半の青年の姿だった。そして古物商免許こぶつしょうめんきょまで見せた。役人の方は「面倒を見てくれる親戚しんせきるのなら言ってくださいよー」と愚痴ぐちをこぼしながら帰って行った。家族全員が医療券いりょうけんから国民健康保険証こくみんけんこうほけんしょうへ切りわる。役人が帰ってからしばらくすると印をむす呪文じゅもんとなえると……空間が一瞬いっしゅんだけぐにゃりと曲がったと思うと令一は元の姿に戻った。


 何より、僕はもう家事もせずに自由に子供として遊べるのだ。まあ……友人はまだないが。


 声も元に戻っていた。十歳児じゅっさいじ天邪鬼あまのじゃくの声だ。


 「ねえ、友達が欲しいの?」


 「どうしてそれを!」


 「天邪鬼あまのじゃくって人間の心がある程度読めるよ? だからツンデレになることもできるし……いたずらも出来るし……占いも出来るんだ」


 (怖い……)


 「あ、今『怖い』って思ったでしょ?」


 (本当に心が読まれた……)


 「僕の異能いのうにびっくりしたかい? だからかくごとはやめておくれ」


 「うん」


 「で……友達。そうだな。鬼界きかいに行くか。実は感天堂かんてんどうキッチまで用意している。そういえばこの家、ゲーム機ねえよな。オヤジなら大丈夫。今日はナイトデイケアの日だ」


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