第一話

 時はさかのぼる……。


 「貴方あなたは本当に行くんですね」


 「はい……アマノサグメ様」


 「このままですと、この国は崩壊してしまいます。かつてのように。みんな『右向け右』となったらこの国はもう一回……ほろびるでしょう。だからこそ天邪鬼あまのじゃくの中でも特に魔力まりょくのある貴方あなたを……九人のうちの一人である九鬼くきの中から選んだのです。まだあなたが十歳じゅっさいであるにも関わらず……ですよ?」


 ――そう、かつての出雲王国いずもおうこくのように。そして一九四五年当時のように


 「では……あなたにこれを」


 「これは」


 闇色やみいろの……紫色むらさきいろの光を放つ石だった。美しい。


 「反抗心はんこうしんの石。この力を人間におよぼすのです。でも制御せいぎょは難しいですよ。この石を国津神くにつかみまつ神社じんじゃがある巨木きょぼくむのです。そうすればこの国に天邪鬼あまのじゃくの心の持ち主が増えます」


 「やってみます! サグメ様! この日本を天邪鬼あまのじゃくの心の持ち主だらけにして見せます!」


 「それと……こちらをごらんください」


 水晶玉すいしょうだまに映ったのは孤独死こどくしだらけの団地だんち障碍者しょうがいしゃ放置ほうちであった。


 「これが……戦火えんかを乗り越えて天邪鬼あまのじゃくの心……つまり民主主義みんしゅしゅぎの心を手して発展はってんした国家の成れの果て。この国には天邪鬼あまのじゃくの心が必要な時がまた迫って来たのです」


 「この家……。なんてかわいそうなんだ」


 ん? 名前の表札が『九鬼くき』だと?


 「気が付きましたか? ここなら苗字みょうじも同じ。うってつけです。さがすのに大変でしたよ。さすがの私でも」


 サグメ様、さすがです。


 「そこで思いついたのです。実はこの石を売りこむことで自立できるのではないかと。ここの家ならあやしまれても……天邪鬼あまのじゃくでも受け入れてくれる可能性かのうせいが高いでしょう。いえ……家庭かていと呼べるかどうかあやしいですが」


 「九鬼令一くきれいいち、やってみます。名の通りからゆうを作り出します!」


 「貴方あなたしん勇者ゆうしゃなのですね。貴方あなた天邪鬼族あまのじゃくぞくほこりです……」


 「もったいないお言葉!」


 「もし、この少年の心をつかんだら鬼界きかいにもご招待しょうたいさせてあげてください。もちろん、この鬼楽城きらくじょうにも」

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