第3話 汚い部屋とセミダブルベッドと私

私が強いと分かったところで、私とユノちゃんはアヤさんの部屋に連れていかれた。


「今更言うのも申し訳ないんだけどさ、うちが前に勧誘してきた構成員があっさり死んじゃって、しかも何人も。だからうちって今勧誘禁止になってるんだよね。だから、上にバレるまでは2人のことは報告できないし、その分お給料も怪我の手当てもご飯も支給されないけどいい?ご飯はうちが買ってきてあげるし買ってほしいものもできれば買うようにするからさ」

「いいけど、それだとわたしたちの寝る場所はどうなるの?」

「心配しないで。この前、丁度うちの同室の子がお亡くなりになったもんでベッドは1つしかないけど他の家具もそのままにしてあるし、クローゼットに服とかも2人にサイズがぴったりくらいのが入ってるはずだから我慢してね」


つまり、私たちは死んだ人がもともと使っていたベッドで寝ることになったのだ。でも、ベッドが1つしかないってことは毎晩くっつき合って寝ることができるわけだ。



アヤさんの部屋に着くと、そこはネトゲ廃人の部屋のようになっていて、床には何かの箱やお菓子の袋などが散乱してとてもじゃないけど本当に人が現在進行形で住んでいるのか怪しくなるような部屋だった。

すると、急にユノちゃんがキレた。


「ちょっと!?いくら夜はゲーム昼は任務があるからっていってこの部屋はひど過ぎるんじゃないの!?もっと部屋も綺麗にしとかないと体が自然にアバターと同じ動きをしちゃった時にもの踏んだりして怪我するもとだよ!!」

「え…。う、うち、別にゲームは椅子に座ってやってるから自然にアバターと同じ動きしちゃうとかはないかな。もしかして、その癖があるのはユノっちの方で、うちと一緒にプレイした時にその癖が出ちゃうと危ないからでしょ?」


どうやら図星だったらしい。ユノちゃんは少し顔を赤くすると慌てたように言った。


「べ、別にそういうわけじゃないけど、部屋は綺麗にしとかないと色々と困るでしょ?」


ユノちゃんは話題を逸らそうと必死なのか、何も言わずに部屋の掃除を始めてしまった。部屋を物色するなとばかりにゴミの山の前に立ち塞がるアヤさんと取っ組み合いを始めたのを見て、私はこれからの生活が楽しみだと思った。



「いやー、ホントに部屋掃除してよかった。まさかヘソクリの入った通帳がこんなところで見つかるだなって…。もう誰かに盗まれたモンだと思ってすっかり諦めてたけど」

「だから言ったでしょ?それで、ヘソクリはどれくらいあったの?」

「480万。これでまだ今月も課金できるぞ」

「480万…。そんなにあるんだったらわたしたちにも分けてよ。お給料が支給されないのはミス・ペインの所為なんだから」

「何かものを買ってあげるならいいけど、現ナマは流石にあげられないなぁ。ほら、欲しいもの言ってみなよ」

「新しいゲーミングヘッドセットと、来月発売するプレプレ4のフレイムブレード2の初回生産限定盤と…」


何か、アヤさんと話してるときのユノちゃんの方が楽しそう。勘違いかもしれないけど、少し嫉妬しちゃう。


「どうしたの、ツバキちゃん。機嫌悪そうだけど」

「だって、アヤさんと話してるユノちゃんの方が楽しそうだもん」


すると、急にニヤニヤしながらアヤさんが私に耳打ちしてきた。


「もしかして、妬いてる?」


図星。もちろん、私は取り乱した。


「え!?い、いやいやいやいや、べっ、別にそういうワケじゃないし。ただ、楽しそうだな、私と話すよりも楽しいのかな、って…」

「やっぱり妬いてるんじゃん。まあまあ、夜はベッドの中で盛大にいちゃつけるんだからいいじゃん。私は気にしないよ、ゲームやってる間はヘッドホンしてやるから」


からかわれてしまった。多分、アヤさんは冗談のつもりで言ったんだろうけど、私たちだって体の関係なんて持つつもりはない。

でも、なんかユノちゃんの方を向いたら顔を真っ赤にさせていた。それに、顔が緩みかけているように見える。まさか、ユノちゃんはそこまで考えてくれていたのだろうか。もしもユノちゃんがどうしても、って言うんなら私は構わない。


「あー、結局1日掃除で潰しちゃったか。まあ、夜ご飯はうちが買ってくるから少し待っててね」


そう言い残して、アヤさんは部屋から出ていった。



何もかもを済ませた頃、時計の針は9時半を過ぎていた。


「ユノちゃん、そろそろ寝ようか」

「今日はミス・ペインと同じチームでやる約束を…。はぁ、仕方ないな。いいよ。その代わり…」


ユノちゃんは私に甘い。だから私が目を真っすぐに見つめればイチコロだった。その代わりって、どうするんだろう。まさか私、襲われちゃう!?ああ、ダメだよ。私にはまだ早いよ、ユノちゃん…。


「べ、別に襲うつもりじゃないけど…」


おっと。どうやら考えていたことが口に出ていたらしい。

私たちはベッドに入ると向き合った。暗闇の中、ユノちゃんの顔だけが私の前にあった。心臓がドクドクいう音が聞こえる。ユノちゃんが息をする音も聞こえる。

…ああ、私、ダメかも。

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