第2話 ミス・ペイン

あの襲撃の後、私とユノちゃんは混乱に紛れて朝ごはんだけかっさらってお世話になった<シンジュク>の孤児院を後にした。


「そういえば、どうやって戦ったり生活したりするのか計画してなかったな…。どうしよう、ユノちゃん」

「ツバキちゃんそこまで考えてなかったのか…。まあ、そこまでもわたしからすれば計画通りなんだけどね」

「け、計画通り?どういうこと?」

「実は、私のネッ友に【魔女狩り】の連中と戦う組織に入ってるって言ってる人がいたんだけど、そこに入ってみるのはどうかな?」

「そ、そんなこと私たちがしても大丈夫なのかな?」

「孤児院抜け出して来ちゃった時点で行く宛ても無いでしょ?そこなら、宿もあるし働きに応じてお給料も出るんだよ」

「何それ。とりあえず、その人と連絡取ってみてくれない?」

「いいよ」


ユノちゃんはスマホを取り出すととある電話番号にコールした。すると、誰かが電話に出た。女性の声だった。


『ハロー、ユノっち。どうしたん、こんな朝早くに。うち眠いからさっさとしてもらえんかな?』

「さっき、異端撲滅同好会を名乗る連中にわたしの入ってる<シンジュク>の孤児院が襲撃されたんだけど」

『マジ!?大丈夫なん、それ?』

「うん、大丈夫。それで、ミス・ペインの所属してる団体とやらを紹介してほしいんだけど。わたしと友達が入りたいから」

『あ、今のうちに言っとくけどうちらんところに加入するんだったらうちのことはミス・ペインって呼ばないでくれる?一応、ネットゲームはご法度で、ユーザーネームで呼ばれると上に怪しまれるから』

「りょ、了解。それで、今どこにいる?」

『一応、自室。徹夜でイベランしたもんで』

「今って会える?」

『そのつもりだった。今準備終わるところだから<シンジュク>の孤児院の最寄りのカフェで合流でいい?』

「うん、ありがとう」


ユノちゃんは電話を切った。


「ユ、ユノちゃん。徹夜はよくないよ」

「わ、わたしはショートスリーパーだから問題無いの。それに、ツバキちゃんよりも背ちっちゃい方が色々とお得だし」

「い、色々とお得って?」

「何でもいいでしょ。それより、待ち合わせ場所に行くよ」


私たちがそれと思しき最寄りのカフェに行くと、既に店内でカウンター席に1人の女性が腰かけていた。その人は、マシンガンのケースらしきものを背負っていた。多分、この人だ。


「あなたが、ミス・ペインですか?」

「もしかしなくてもユノっち?敬語なんかいらないよ。ほら、いつもチャットで喋ってるような感じでいいから」

「あ、うん。現実では初めましてだけど、わたしが近衛コノエユノ。こっちはわたしの大親友の小槻コヅキツバキちゃん」

「じゃあ、ツバキっちって呼べばいい?」


急に話を回されて私は思わず驚いた。


「えっ!?ああ、うん。よろしくお願いします」

「ユノっちのお友達なんだからそんな固くなくていいのに。もしかして、緊張してる?」

「まあ、うん」


予め注文していたのか、私とユノちゃんのもとにホットミルクが運ばれてきた。


「ねえ、ミス・ペイン。もしかしてわたしたちのこと舐めてる?」

「ごめーん、悪気はなかったんだけど好み分かんなかったし。っていうか、あんまりキレてないね。てっきり『ふざけんな!なんでミルクなんだよ!』って怒ると思ったのに」

「ちょ、ちょっと…!!ゲ、ゲームの時は人が変わるから…、普段はそうでもないけど」


どうやら、私の知らないユノちゃんがいたらしい。私は複雑である。


「おっと、うちの自己紹介忘れてた。うちは桂川アヤ。組織<ツクヨミ>の部隊長の1人だよ。よろしく」

「その<ツクヨミ>が【魔女狩り】の時に私たちの為に戦ってくれてた組織?」

「そう。それじゃあ、さっそくアジトについて来てもらうよ」

「アジトってここからどれくらいかかる場所なんですか?」

「場所は知らない。組織の構成員だけが持ってるカードを使わないとゲートも展開できないから敵襲も無いよ」

「え?ゲート」


アヤさんが私たちを路地裏に連れ込むと、1枚のカードを宙にかざした。すると、本当に目の前に時空の歪みみたいなゲートが展開された。


「ここから行くんですか?」

「そうだよ。あと、ゲートくぐった先では足元に気を付けてね」


ゲートをくぐると、アヤさんの言っていたことの意味が分かった。そこには大量の武器が転がっていた。


「ここには世界中、ありとあらゆる次元の武器が揃ってる。何でも好きなだけ持ってっていいよ」


何でも、と言われたけど私はイマイチどれを持っていくべきか分からなかった。でも、少し漁り続けているうちに魅力的なものが出てきた。グリップと鎌、鎖の一部が虹色に光っている、いわばゲーミング鎖鎌だった。


「え?それにするの?それ、魔力高くないと使い物にならないよ」

「そうなんですか…。私、自分で自分が魔力高いのかどうか分かんなくて」

「じゃあ、うちが測ってあげるよ。えっと………」


しばらく、アヤさんの動きが止まった。動き出した時、アヤさんはわなわなと震えていた。


「魔力が0と計測不可を行き来してる…。魔力に波がある、不安定だ」

「え?その場合って使えるんですか?」

「分かんない。でも、自分で魔力量が調節できるようになれば最強にも最弱にもなれる。こんなことって、本当にあったんだ…」


つまり、私は最強にして最弱…。つまり、強いってことだ。

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