魔女狩りのち聖戦、時々百合

クラプト(Corrupt)/松浜神ヰ/ハ

【訂正版】第1話 聖戦リバイバル

8年くらい前、このジパング国では一定よりも魔力の高い者を老若男女問わずありとあらゆる手段で殺害や拷問、拉致などをしたり、服従させたりする【魔女狩り】が起きてしまった。

その被害者、というより死者は聖都トウキョウに認知されているだけでも国内でおよそ10万人を超えてしまい、その影響で孤児となった子供の人数も9000人を超えるんだとか…。

私もその中の1人、小槻コヅキツバキ。聖都トウキョウの第二区画<シンジュク>の孤児院に60人くらいの子たちと住んでる14歳。今日の私は、嬉しいような悲しいような、自分でもよくわからない複雑な感情を抱えていた。

8年近く続いた【魔女狩り】に終止符が打たれた、と都知事の方がスマホで見てた会見で言っていたからだ。お母さんは魔女狩りで死んじゃって、私も親を奪われる被害に遭った子供の1人だ。世の中が平和になったことはよかったとして、改めて自分たちの帰る場所が理不尽に奪われてしまったことを痛感した。

私がそんなことを考えながら寮から食堂へ向かおうと部屋を出た時、隣の部屋からちょうど彼女が出てきた。私の大親友、近衛コノエユノちゃんである。


「おはよう、ツバキちゃん。どうしたの、朝から複雑そうな顔してさ。なんか悩みでもあるんなら聞くよ?話しにくいことだったらいいけどさ」


私たちは話しながら廊下を歩き出した。今日もユノちゃんは可愛い。


「あ、うん。今朝、早朝の会見で府知事が【魔女狩り】は終わりだって言ってたからさ。ああ、ついに終わったんだな、とか思いつつもやっぱりお母さんとかが理不尽に殺されちゃったんだな、っていう風にも考えちゃって」

「そっか。わたしもその会見見たけどさ、やっぱり実感無いんだよね。なんて言うか、またあちこちで大きい戦いが起きちゃうんじゃないかな、なんて考えちゃうんだよね。まあ、そんなことはよっぽど無いと思うけど」

「い、今のはフラグになるんじゃ…?とりあえず、そうならないといいんだけどね。私さ、もしも大人になったらもうこんなことが起こらないように活動する仕事にでも就こうかなって考えてるの。ユノちゃんはどう思う?」

「わたしは賛成かな。じゃあ、ツバキちゃんがそうするんならわたしもそういう仕事に就くよ。可愛いツバキちゃんに何かあったら困るからね」

「べ、別に私の為だけに人生を無駄にするようなことはしなくていいのに。ユノちゃんだって可愛いんだからもっと他に適した仕事とかあるはずだし」

「でもさ、わたしが本当に心配なのはツバキちゃんにお友達がいないことだよ。ツバキちゃんって可愛いのに友達少ないからさ、わたしが傍に居てあげたいなって思ってるの。わたしはツバキちゃんの為だったら何でもするよ」

「そ、そんなの勿体ないよ。ユノちゃんだったらきっとモデルさんとかにもなれるのに。それに、もともとユノちゃんは上流階級の生まれでしょ?庶民の出な私なんかには…」


すると、ユノちゃんはいきなり私のおでこにデコピンしてきた。ユノちゃんは少しばかり頬を膨らませて怒っているような感じだった。


「わたしたちはこの孤児院に入った時点で同じ家族だよ。もともとの身分なんか関係ないんだからね?いい、今度気にしたら仲良くしてあげないよ?」

「そ、そんな~!?ねえ、それだけは勘弁してくれないかな?」

「…ふふっ。冗談に決まってるじゃん。わたしはどんな時もツバキちゃんのことは大好きだよ。ツバキちゃんはわたしのことどう思ってる?」

「わ、私も、ユノちゃんのことが…」


その時だった。どこからかは分からないけど大きな爆発音が鳴り響いた。


「えっ、何!?」

「分かんない。けど、私たち2人ならどうにかなるよ」

「ユノちゃん…」


すると、急な館内放送が入った。聞き覚えのない男の声だった。


「あー、あー、テステス。聞こえるか少年少女。こちら異端撲滅同好会、俺は会長のイープス、いや、正確に言うと会長の分身だ。よく聞け、これから俺たち異端撲滅同好会はジパング中の異端児が集まる孤児院を毎日ランダムに何か所かを奇襲する。これから安心安全の生活が送れると思ってたろうに。まあ、親を恨むことだな。1秒1瞬を恐怖に震えながら過ごすといいさ」


男の声はそう言い残して館内放送を切った。寮は混乱した多くの子供たちの悲鳴やら泣き声やらで大騒ぎになった。


「ツバキちゃん、どうする?きっとツバキちゃんだったら黙って見過ごすわけがないよね?」


本当にユノちゃんは私のことを分かってくれてるな。


「うん。無駄な抵抗だとしても、異端児だからって舐められ続けるわけにはいかないし、あんな奴ら放っておけないよ。私は1人でもアイツらと戦う」

「1人でも、なんて言わないでよね?さっきも言ったじゃん、可愛いツバキちゃんに何かあったら困るし、ツバキちゃんの為だったら何でもするよ」

「それって、私と一緒にアイツらと戦ってくれるってこと?」


ユノちゃんは何も言わずに右手の親指をぴんと立てた。


「あ、ありがとう。ユノちゃん、これは、私たちの聖戦だよ」


この時、私たちの中では既に戦う覚悟が決まっていた。

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