第6話【魔法少女ギルドの主と魔法少女登録】

 石造りの家屋や商店が軒を連ねるこの町は多種多様な職人が住まう町だと道中ヨシモト殿が教えてくれた。

 ヨシモト殿の大弓もこの町で調達したとのことだった。

 ワシはなにを武器にすればよいのじゃろうか。

「着いたわよ。ここが魔法少女ギルド、度々来ることにはなるだろうし、ちゃんと覚えておくのよ」

「うむ、無論じゃ。それにしても立派な建物じゃの」

 横にも縦にも大きい白壁の建物がギルドの会館らしい。赤い瓦と煙突は遠くからでも見えるし目印にはなるじゃろうか。

「さあ入りましょ」

 これもまた大げさなほど大きく重い扉を開けるとカランカランと来客を知らせる鈴の音がした。

 広いロビーには背の高い丸いテーブルがいくつも配置されている。

 幾人かがそのテーブルを囲み談笑をしている様子がうかがえた。

 あの者どもも魔法少女なのじゃろうか。

「あらぁ、ヨッシーちゃん。久しぶりやねぇ、来てくれて嬉しいわぁ」

 奥のカウンターから現れた眼鏡をかけた少女はゆったりとした口調でワシたちに声をかけた。

 彼女がこのギルドの主なのじゃろう。

「久しぶりね、なっちゃん。いつぶりかしら」

 ヨシモト殿は慣れた様子で言葉を交わす。

 それにしてもヨシモト殿は人を普通に呼ぶことができんのじゃろうか。

 おかげで誰なのかさっぱり見当がつかん。

「ノッブ紹介するわ。こちらはギルド長のモトナリ、わたくしはなっちゃんと呼んでいるわ」

「モトナリ・・・・・・、え、モトナリじゃと!?」

「あらぁ?ウチのこと知ってはるのぉ?嬉しいわぁ」

 モトナリ殿は顔の前で小さく手を合わせてはにかんだ。

「元・毛利家当主の魔法少女モトナリよぉ。よろしゅうねぇノッブちゃん」

 やはり毛利元就殿じゃったかぁ・・・・・・!

 というかワシと何かしら因縁のあるやつしかおらんのか、この世界。

 やりづらくて仕方ないわ!

「う、うむ・・・・・・よ、よろしく頼むぞモトナリ殿」

「大殿?顔色が優れませんが」

 こわばった笑みを不審に思ったのか光秀が顔を覗き込む。

「そ、そ、そ、そんなことはないじゃろ。ないよな?」

「え?いや、お顔が真っ青ですよ大殿」

「もうノッブ、まだ気分悪かったなら正直にいいなさいよね」

「いやなに大丈夫じゃ。心配かけたな、ヨシモト殿」

 いかんいかん、毛利攻めが記憶に新しかったばかりに思わず動揺してしまった。

「そ、そう?ならいいけど・・・・・・」

「うむ。それはさておきヨシモト殿、魔法少女登録をするのじゃろう?」

「そうだったわ。なっちゃん、ノッブのギルド登録お願いできるかしら」

 ヨシモト殿はモトナリ殿に向き直っていうと、モトナリ殿はにっこりと頷いた。

「もちろんやぁ。じゃあノッブちゃん、この紙に手を置いてもろてもええかなぁ」

 モトナリ殿が差し出した紙には複雑な模様が描かれていた。

「これはなんじゃ?」

「これは契約の魔法陣やでぇ。これでノッブちゃんの名前を連判状に載せることができんのやぁ」

「わざわざ魔法を使って名前を載せるのか?」

「そやでぇ。名前は大事なものやから魔法で保護したらなあかんのやぁ、万一名前取られたら大変やしねぇ」

「そうなのか?しかし連判状である必要はあるのかの」

「魔法少女ギルドは魔法少女みなが対等な立場の連合体やさかい、上下の差がないように連判状になっとるんやでぇ。ウチもギルド長とはいえみんなと同じ魔法少女の一人やぁ。やからノッブちゃんもウチのことなっちゃんって呼んでもええんやでぇ?」

「う、うむ。気が向いたらな?ヨシモト殿もこれで名前を登録したのか?」

「もちろんしてあるわよ。名前を登録すると魔法少女としての特性も分かるしね。しておいて損はないわ」

 ヨシモト殿は自分が登録したときのことを懐かしむように頷いていう。

「なるほどのぅ・・・・・・いや、待て。特性じゃと?どういうことじゃ?一人一人違うのか?」

 ワシがたずねると光秀がどこからかフリップを取り出して語り出す。

「魔法少女にはそれぞれ適正のある武器タイプがあるのです。武器の種類は刀剣、弓、銃、槍などなどです。自分に合った武器を得るためにも適正は分かっていた方がよいわけです」

「そうじゃったか。ということはヨシモト殿の特性武器は弓なのじゃな」

「そうね。まあわたくしは自分の特性なんとなく分かってたけど」

「モトナリ殿の特性武器はなんなのじゃ?」

「ウチなぁ、ウチも弓やでぇ」

「そうか・・・・・・」

 もしかして戦国出身の魔法少女は大半が弓なのでは・・・・・・?

「さあ登録始めよかぁ。心の準備はええかぁ、ノッブちゃん」

「う、うむ。ここに手をかざすのじゃな?」

 広げられた契約の魔方陣に恐る恐る手を伸ばす。

 すると描かれているだけの模様が青白く発光し、動き出す。

「な、なんじゃ?」

「じっとしててなぁ、もう少しで終わるからなぁ」

 思わず体を仰け反らせたワシの腕をつかみモトナリ殿はたしなめた。

 モトナリ殿のいう通り、すぐに発光はやみ元の模様の描かれた紙に戻った。

「はい、終了やぁ。お疲れぇ」

「終わったのか?なにが変わったのか分からん」

「ちゃんと名前は登録されとるでぇ」

 モトナリ殿は円形に文字が書かれた紙、連判状をひらひらと振る。

 そんなぞんざいに扱っていいものではないじゃろ!

「それでノッブの特性はなにかしら!」

 ヨシモト殿が目をキラキラと輝かせる。

「どれどれ、ノッブちゃんは・・・・・・」とモトナリ殿はワシの名前が載っている部分を指でなぞる。

「んー銃やねぇ、意外性がないなぁ」

「あらいいじゃない、銃」

「私はなんとなく分かってました」

 モトナリ殿、ヨシモト殿、光秀が口々に感想を述べる。

 しかし鉄砲であれば少しは心得がある。

 なにより武器が石にならなくてよかった。

「さてノッブの魔法少女登録も終えたことだし、次は武器の調達ね」

「さっそく行くんやねぇ。あ、せやったらこれ持ってってええでぇ」

 モトナリ殿は懐から一枚の札を取り出すとワシに手渡した。

「『ギルド入会ボーナス券』?これはなんじゃ?」

「ギルドに初入会したらもらえる特典のチケットやぁ。この町の商店やったら武器と無料で引き換えてくれるでぇ」

「おお、無料とな?」

「よかったですね大殿」

「ただ無料になるのはビギナーズアイテムだけやけどなぁ」

「・・・・・・?つまりどういうことじゃ?」

「つまり初心者用の大して強くない武器しかもらえないってことよ」

「むむっそうなのか」

 ヨシモト殿の言葉に思わず表情を曇る。

 強い武器が手に入ると少し期待をしておったのじゃが・・・・・・。

「いいじゃないですか最初から強い武器を扱えるとも限りませんよ、大殿。最初の内は初心者用でも扱い方に慣れなくてはいけません」

「むぅ、それもそうじゃな。なにはともあれ恩に着るぞモトナリ殿」

「ええんやでぇ。また来てなぁ」

 フリフリと朗らかに手を振るモトナリ殿に見送られギルドを出る。


【次回】『鉄砲鍛冶探し』

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