第5話【赤髪の魔法少女】

「うむ?そなたは、魔法少女か?」

「あ、背に魔法少女もいたんだね。見ない顔だけど新規さんかな?」

「いやシンキさんではない、ノブナガさんじゃ」

「ハハハ、そういう意味でいったんじゃないけど」

 と少女は頬を指で掻く。

「でもノブナガか、君もこっちに来たんだね」

「君も、ということはそなたも戦国の世から来たのじゃな?」

「まあね」

 少女は屈託のない笑みを浮かべて答えた。

「ところで君はこんなところでなにをしてるんだい?」

「ワシは吐き気を落ち着けていたところじゃ」

「吐き気?」

「ああ、いや・・・・・・ギルドに向かおうとじゃな」

「そっか、確かにそれが無難かもね。じゃあボクも一緒について行こうか?こっちに来たばかりじゃ不安だろうし、ボクはこれでも魔法少女の先輩だしね」

「ありがたいご提案ですが――」

 光秀が口を開いたところでヨシモト殿と雪斎殿が戻ってきた。

「戻ったわよ、ノッブ」

「おや、これはシンちゃん殿。ご機嫌麗しゅう」

 雪斎殿が赤髪の少女を見るなり挨拶を交わす。

「やあ雪斎くん。ヨッシーくんも奇遇だね」

「あら、シンちゃん。どうしたの、こんなところで」

 ・・・・・・ん?シンちゃん?シンちゃん・・・・・・?

「そなたは、一体・・・・・・?」

 ワシがたずねると少女はこちらに向き直る。

「ああ、そうだね。名乗りそびれてしまったよ」

 咳払いをすると改めまして、と彼女は続けた。

「ボクは魔法少女シンゲン、元・甲斐国守護だよ。よろしくね」

「甲斐国ということは、武田殿か!というか”シン”ゲンでシンちゃんはどうなんじゃヨシモト殿!」

「いいじゃない、かわいいでしょ?はい水、ちゃんと飲みなさい」

「う、うむ、かたじけない」

 水の入った器を受け取ると中身を一気に飲み干す。

 ほどよく冷えた新鮮な水が喉を潤した。

「もう落ち着いたかしら?ノッブ」

「もう大丈夫じゃ。迷惑かけたの」

「どうやらヨッシーくんとはいいコンビみたいだね、ちょっと安心したよ」

 シンゲン殿はヨシモト殿を見てニヤニヤと悪戯な笑みを浮かべていった。

「な、なによ。別に普通よ、このくらい!」

「ふふふ。そうだね、普通だね。ヨッシーくんは面倒見がいいんだね」

「余計なこといわなくていいのよ!」

 顔を真っ赤にしてムキになるヨシモト殿とそれをからかうシンゲン殿は互いに遠慮のない親しげな仲のようだ。

「ヨシモト殿とシンゲン殿は仲がよいのだな」

 ワシがいうとシンゲン殿は腹を抱えて大笑いする。

「ハハハハハ!”仲がいい”か!確かにそうかもね!ハハハハハ!」

「こっ、こんなのただの腐れ縁よ!仲がいいなんてこと、なくもなくはないけど!」

 どっちなんじゃ・・・・・・。

「なんだい、つれないなぁ。ふふふっ」

 シンゲン殿は笑い涙を人差し指で拭った。

「まあ、ヨッシーくんはいい子だから安心していいよ。ちょっと頼りないところもあるけどね」

「それはもういいじゃない!あなた、ほんと余計なことしかいわないわね」

 ヨシモト殿はジト目でシンゲン殿に恨み言を漏らした。

 ヨシモト殿が頼りない?

「ヨシモト殿は右も左も分からないワシによくしてくれた。とても頼りになるお方じゃ」

 ワシの言葉にシンゲン殿は優しい笑みで返した。

「そっか。なんにせよヨッシーくんのことを頼んだよ、ノッブくん」

「だからなにゆえその呼び方が浸透しておるのじゃ」

「ヨッシーくんがいるならボクは勘助と合流することにしようかな。また会おうヨッシーくん、ノッブくん」

 シンゲン殿は手を振ると旋風に身を包みそのまま姿を消した。

 ずいぶん賑やかな御仁じゃったな。

「ノッブ」

「なんじゃ?」

「そ、その・・・・・・ありがと。嬉しかったわ」

「・・・・・・?」

 嬉しかった?なにかヨシモト殿を喜ばすようなことをいったじゃろうか?

「なにがじゃ?」

「わっ分からないならいいわよ!さ、わたくし達もギルドに行くわよ」

「そうじゃったな。ギルドで魔法少女登録とやらをせねばな」

「ギルドはこちらの道です、大殿」

「うむ、では参ろう」


【次回】『魔法少女ギルドの主と魔法少女登録』

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