第4話【魔法生物の本気と新しいトラウマ】

「ひとまずそこで魔法少女登録をするわよ。まずはそれからね」

「魔法少女登録とな?」

 ワシが疑問を呈すると光秀が得意げに解説し始めた。

「魔法少女としての活動自体は比較的自由です。単独で魔王に挑む魔法少女もいれば、バディやパーティを組んで複数人で活動する者もおります」

 光秀の言葉をヨシモト殿が引き継ぎ解説を続ける。

「でも倒す敵は魔王だから目的は同じ、魔法少女同士情報交換とか共闘できるところは共闘した方が効率がいいでしょ?だから魔法少女同士助け合える組合を組織したの」

「それが魔法少女ギルドということじゃな。つまりそこに登録をすると他の魔法少女から魔王の情報を聞き出したり助けを求めたりできるわけじゃ」

「そういうことです。さすが大殿、飲み込みが早くて助かります」

 戦国の世でも敵国の情報は肝心じゃったし、兵站や弾薬の確保のために方々と交渉することが戦の行く末を決めることもあった。

 共同して戦線を組める分、戦国の世よりやりやすいかもしれんな。

「して、この山の頂上からどうやって麓まで降りるのじゃ?」

「そうね、まずはこの世界の移動方法を伝授するわ。雪斎、出番よ」

 ヨシモト殿が手を天に伸ばすとポンッと小気味よい破裂音とともになにかが現れた。

「姫、お呼びですかな?」

 現れたのは光秀と同じ二頭身の生き物だった。光秀は小熊のような生き物だったが、こちらは猫に似た生き物だった。

「ヨシモト殿、その生き物はもしや」

「ええ、これはわたくしの相方。雪斎よ」

「よろしくお願いしますぞ、ノッブ殿」

「なにゆえその呼び方浸透しておるのじゃ・・・・・・」

「それで姫、拙僧はなにを致しますかな?」

 ワシの恨めしい視線も尻目に雪斎殿はヨシモト殿に恭しく頭を下げる。

「雪斎、麓まで降ろしてちょうだい」

「お任せくだされ。お安いご用にござります」

 雪斎殿はまたもポンッという破裂音とともにその姿を変える。

 元の姿の何倍もある巨体は凜々しい九尾の狐の姿だった。

「さあ姫、背にお乗りくだされ」

「ええ。ノッブ、わたくしの後に続いて麓まで降りてきてちょうだい」

 ヨシモト殿は慣れた様子で雪斎殿の背に飛び乗ると風のような速さで山を下った。

 猛烈な突風がワシを襲う。

 なんということじゃ・・・・・・!なにかに化かされた気分じゃ。

「さて、大殿。私達も行きましょう」

「お前もあれができるのか!?」

「もちろんです。魔法生物とはそういうものです」

「そういうものなのか・・・・・・。なんというか、うん。世界は広いな」

「色々飲み込みましたね、大殿」

 正直目の前で起きたことが現実離れしすぎて理解ができていない。

 考えてはいけないのじゃ、この短時間でワシは悟ったぞ光秀。

「では光秀、お前も変化せい」

「お任せあれ」

 ポンッと光秀も巨体に姿を変える。

 煙が晴れるとその姿が顕わとなった。

 鹿のようにしなやかな四つ足、精悍な竜のような頭、鱗に覆われた筋肉質の胴。

「光秀お前、その姿は」

「はい、麒麟です」

「どうやったら小熊が麒麟になるのじゃ!?」

「そこはいいじゃないですか。さあ背にお乗りください。ヨシモト殿がお待ちですよ」

「う、うむ」

 背を低くした光秀の背になんとかよじ登り、光秀の首辺りを掴む。

「乗れましたね。では行きましょう、大殿」

 光秀はゆっくりと立ち上がった。一度後ろに背を伸ばしたかと思うと元に戻る勢いのまま前に飛び出した。

「うおおおおおお!」

 光秀の速度と空気圧に体がついて行けず後ろに吹き飛ばされそうになる。なんとか首回りに抱きつくようにして体を固定した。

「大丈夫ですか、大殿」

「な、なんとか耐えたぞ」

「もう麓に着きますからもう少しの辛抱です」

 ぐんぐんと地面が近づく様子は多少の恐怖を煽る。

 もう高いところに登れんかもしれん、ワシ・・・・・・。

「着きましたよ大殿」

「ようやく来たわねノッブ」

「お待ちしておりましたぞ」

 光秀の背の上でぐったりとするワシにヨシモト殿、雪斎殿が口々に声をかける。

「大殿?大丈夫ですか」

「う、うう・・・・・・気持ち悪い、吐きそう・・・・・・うっぷ」

「ちょっと大殿!?やめてくださいよ!?吐かないでくださいよ!?」

 光秀が慌てて体を揺らす。

「おい、揺らすな光秀ぇ・・・・・・本当に吐くぞぉ・・・・・・」

「まったく情けないわね」

 げっそりとしたワシを見たヨシモト殿は呆れた様子だ。

「まあ無理もありませんな」

 元の二頭身姿に戻った雪斎殿もそれに続く。

「・・・・・・仕方がないわね。水でも持ってきてあげるわ。そこで休んでなさい、ノッブ」

「かたじけないです、ヨシモト殿」

 言葉も出せないワシに代わって光秀が礼を返す。

「別に構わないわ。行くわよ、雪斎」

「はっ」

 水を取りに町の方に向かうヨシモト殿の背を見送る。

「のう、光秀・・・・・・」

「はい、なんですか大殿」

「ヨシモト殿は器の大きいお方じゃな。前世とはいえ自分を討った相手の面倒を見てくださるとは」

「・・・・・・左様でござりますな。それにしても、ふふっ」

「・・・・・・なんじゃ、なにがおかしい」

「いえっ、まさか大殿からそのようなお言葉が聞けるとは、ふふふっ」

「ワシだって感謝くらいできるぞ!お前にも何枚も感状書いとるじゃろうが」

 そのような他愛もない会話をしている内に吐き気も自然と落ち着いてきた頃だった。

「おや、このようなところに麒麟とは珍しいね」

 背の高い赤髪の少女が声をかけてきた。


【次回】『赤髪の魔法少女』

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