第3話【弓上手のチュートリアル殿】

 光秀のセリフを遮って現れたのは派手な格好の少女じゃった。

 金色の髪をくるくると縦に巻いた気の強そうな瞳の少女。

 恐らく今のワシ、魔法少女たるワシと年はそう変わらないじゃろう。

「あなたがノブナガね。もちろんわたくしのことは分かるわよね?」

 その少女はずかずかとワシの元に無遠慮なほど近寄ってきた。

「いや、全く見当がつかん。何者じゃ」

 そう答えるとチッと舌打ちするのが聞こえた。

「そうだろうとは思ってたわ。とはいえ腹立たしいわね、自分を討った相手に気づかれないのは」

 なにやらご立腹だが、なんのことだかさっぱり見当がつかん。

 女子の考えることは分からんものじゃな。いや、今やワシも女子なのじゃが。

「大殿、大殿」

 光秀が小声で呼びかける。

「なんじゃ光秀、あやつは誰じゃ」

「気づかないんですか大殿、ほらあの背中の見てください」

 光秀の示す方には少女が背負う大弓と弓筒があった。

「ほら、あれ見れば分かるでしょう。大殿」

「あの弓・・・・・・弓・・・・・・?」

「ほら、あの東海一の弓取りと呼ばれたあのお方」

「・・・・・・ハッ!今川義元!あれが!?」

 見れば不機嫌そうな顔でこちらを睨み付ける少女、もとい義元殿の姿があった。

「そうよ!わたくしこそが桶狭間で討たれた元・今川義元よ。今はこの世界で魔法少女・ヨシモトとして魔王討伐活動をしているわ」

 とてもではないが信じられん。いや、確かに強大な相手じゃった。

 足利将軍家の親戚筋じゃし東海三国を治めた大大名じゃ、白属性とやらがあるのも頷ける。

 じゃが・・・・・・――

「なにも教育係をヨシモト?殿にすることはなかろう!おい、キンカ頭!」

「仕方がないではないですか。ヨシモト殿はこちらの世界でも多方面に顔の利くお方。チュートリアルにはうってつけのお方なのです」

「ちょっとミッチー、人のことチュートリアル呼ばわりするとはいい度胸じゃない」

「ミッチー!?」

「いいこと?あなたもこちらの世界で魔法少女やるからにはなりきりなさいよね。あなたのことはこれからノッブって呼ぶから、いいわね」

「ノッブ!?」

 もう追いつけん所まで来ておる。なにをいっておるのじゃこやつは。

 朝廷から右大臣にまで任じられたこのワシがノッブ・・・・・・?

「いつまでもここにいても仕方がないわね。さっさと場所変えるわよ。ついてきなさい、ノッブ」

 ヨシモト殿は踵を返すと足早に泉とは逆の方向に歩を進める。

「お、おい待て。このワシを置いていくでない」

 慌ててワシも光秀とともにヨシモト殿の後を追う。

「なあ、ヨシモト殿。そのノッブという呼び方はどうにかならんのか」

「じゃあなんて呼ばれたいのよ」

「せめてノブナガで呼ばれたいのじゃが・・・・・・」

「却下よ、却下。かわいくないじゃない。あとその話し方も変えなさいよね。前世が抜け切れてないわよ」

「これはいいじゃろ、別に!というか前世が抜け切れてないってなんじゃ!」

「そのままの意味よ。ほらもうすぐ外に出るわよ、ノッブ」

「ぐぬぬ・・・・・・外とはいってもワシらは今大陸のどの辺におるのじゃ?」

「今いるのはこの大陸の中央にある、大陸で一番高い山の頂上に建てられた神殿の中。別世界とこの世界とを繋ぐゲートのような所がここなのよ」

「あの泉がそのゲートですよ、大殿」

 すかさず光秀が補足する。

 なるほど、ワシもあそこからこちらに連れ出されたというわけか。

「見てご覧なさい、このトッデルキナの大地を」

「こ、これはすごい・・・・・・!」

 眼前には大陸の全てが見渡せるほどの雄大な景色が広がっていた。

 安土の天守から見た景色とは比べものにならないほどの豊かな自然と大規模な城郭都市が各方角に見える。

「ここ、いい景色よね。わたくしもたまに景色が見たくてここに来るの」

「絶景じゃな。ここに城を建てたいくらいじゃ」

「その発想はもう捨てなさいよ・・・・・・」

 ヨシモト殿が呆れたように嘆息を漏らす。

 この世界では城は建てんのじゃろうか。

「さてここからわたくし達の拠点に移動するわよ」

「拠点?どの辺りにあるのじゃ?」

「ここから見えるあの都市の中に魔法少女が集まるギルドがあるの」

 ヨシモト殿が指さす先は大陸の中央を縦断する大河の畔にある、大陸の中では小規模に部類されるだろう城郭都市だった。


【次回】『魔法生物の本気と新しいトラウマ』

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