第2話【二人の魔王と本能寺の変作戦】

「まずはこの世界について説明しましょう」

 光秀はおもむろになにかを取り出した。

「なんじゃ、それは」

「現状を解説するためのフリップです。戦国の世でも使えたら大活躍だったのですが」

「どういうことじゃ・・・・・・まあなんでもいい。まずは聞かせろ」

「お任せくだされ」と光秀はいうとそのフリップとやらを見せた。

「まずはこの世界についてです。ここはトッデルキナという大陸です。ここには様々な種族がおり、それぞれ勢力圏を持ってはいますが共存関係にあり極めて平和です」

「なおさら分からん。そのような所にワシを呼びつける理由は一体なんじゃ」

「それはこちらのフリップをご覧ください」

 一枚目のフリップを最後尾に持って行くと次のフリップを見せた。

「この勢力図の通り、最近この大陸を戦乱の世に導かんとする謎の新勢力がその勢力圏を広げているのです」

 フリップの図によれば大陸東側の砂漠地帯から大陸の六分の一ほどを支配する勢力、黒の勢力がそれのようだ。

「つまり、ワシにその勢力を抑えろということか?」

「端的にはそういうことです」

「それがワシではなくてはいけない理由はなんじゃ。光秀、お前も戦巧者じゃろう」

「戦が強いだけではダメなのです。この勢力は魔王を名乗る何者かが主犯です。この魔王の力に対抗できるのは白の属性がなくてはならないのです」

「白の属性とはなんじゃ?」

「それについては次のフリップです」

 光秀はさらに次のフリップに入れ替えた。

 すると白属性とはと書かれているフリップが現れる。

「白属性とは」光秀が読み上げると中途半端に捲れた紙片を剥がし隠れていた続きを読み上げる。

「多くの人を引きつける魅力、『生まれるべくして人の上に立ち導く気質を持つ者』が持つ属性です。いうなればカリスマ性とでもいいましょうか。魔王はこの白属性を殲滅し人心の拠り所をなくし混乱を引き起こそうとしているのです」

「なんのためにそのようなことを?一体魔王にはなんの利益があるのじゃ」

 光秀はかぶり振り答える。

「それは未だ不明です。しかし既に幾人もの白属性持ちが打ち倒されてしまいました。そこで戦国の世から白の属性を持つ強者をこちらの世界に呼び寄せる作戦を計画したのです」

「それで本能寺を燃やしたのか?もっと穏やかに呼ぶことはできなかったのか?」

「大殿を呼ぶためには私も大殿も同時に自然な形で戦国の世をリタイアする必要がありました。そこで考えたのが本能寺の変作戦です」

「本能寺の変作戦、じゃと・・・・・・?」

「ええ。その全貌はこちらの通りです」

 光秀が新たなフリップを見せる。

「まず私、光秀と成り上がり秀吉が家中で活躍し大殿の信任を得ます。京を抑えなおかつ同盟の徳川がおり、さらに武田を打ち破った大殿なら次の目標が西に向くのは当然でしょう。中国攻めが私と秀吉になるのが第一段階です」

「まさか秀吉もお前と同じ、その珍妙な生き物なのか・・・・・・?」

「珍妙な生き物!?まあ秀吉も私と同じ魔法生物であるのは間違いございません。秀吉は人に化けるのが少々苦手なので動物っぽさは抜けませんでしたが」

 秀吉のサルのようなネズミのような容姿にはそのような事情があったのか・・・・・・。ねねはそのことを知っておるのじゃろうか。

「そして作戦第二段階ですね。第二段階は私が丹波丹後攻めで足踏みすることです。こうすることで確実に私と秀吉を中国方面に釘付けにできます。そして秀吉に毛利を攻めさせるのです」

「全てお前の思惑通りじゃったのか・・・・・・?しかしそれは全てワシが決めたこと。お前にはどうにもできなかったはずじゃ」

「いいえ、大殿はそうするしかありませんでした。ほら、風が吹けば桶屋が儲かる的なサムシングですよ」

「いや、サムシングですよといわれても分からんが」

「そのために私は斎藤から朝倉経由で織田に入り、織田家臣の中で最初の城持ちとなったのです」

 馬鹿な、全て伏線じゃったのか?光秀が朝倉から織田に移ったのも、秀吉が草履取りになったのも全て・・・・・・?

「最終フェーズが毛利の戦に大殿を呼び寄せることです。秀吉に手紙を出させ大殿をおびき出したところで私が謀反を起こし大殿を葬る。畿内は大殿の領内ですから大した兵を持たずに来るのも想定内でした。奇襲をかけるならばこのタイミングしかございません」

 確かにそうじゃ。

 まさか家臣に、それも光秀に京で襲われるとは夢にも思わなかった。未だに信じられないくらいじゃ。

「そして私を秀吉に討たせる。これで自然な形で、なおかつ同タイミングで大殿とこのトッデルキナに戻れるという訳です」

「い、一体どこまで読み切っていたらそのようになるのじゃ・・・・・・」

 全てを打ち明けられたワシはどっと押し寄せた疲れと計画の全貌に打ちひしがれた。

 将軍を追放し京を治め、今川・朝倉・三好・武田のような名家を圧倒し、広大な領土を手中に収めたワシがまさか手のひらの上で踊らされる駒の一つだったとは・・・・・・。

「大殿、心中はお察し致しますがそれもこれも大殿の力が偉大であったからこその作戦だったのです。悲嘆することはございません」

「むぅ・・・・・・そういうものか?あまり得心いかないが」

「もちろんです。このトッデルキナの平和のためにお力添えいただきたいのです」

「大陸の平和、か」

 日の本では戦乱の世から百年あまり。

 争いが争いを生む戦国の世では為しえたかも分からぬことじゃったな。

 それにここが現実ともまだ信じがたい。

 この夢が覚めるまで少しくらい付き合ってやるのも一興じゃ。

「・・・・・・分かった、こうなっては致し方ない。ワシは決めたぞ光秀。この信長の力、魔王とやらにとくと見せてやろうぞ」

「さすが大殿!勇ましいお姿に感服致しますな!」

「関係ないが、お前そんなヨイショするやつじゃったかの・・・・・・?」

「細かいことはいいんです。それはそれとして魔法少女ノブナガとなった以上、魔法道具を取りそろえなくてはなりません」

「なんじゃと!?支給されるのではないのか」

「自給に決まってます。大丈夫です、先達に教育係の依頼はしました。この世界での世渡りをご教授いただきましょう」

「はなから不安じゃの・・・・・・。それで教育係とは何者なんじゃ?」

「それは――「それはわたくしのことよ!」


【次回】『弓上手のチュートリアル殿』

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