第47話:元勲達の空騒ぎ? 由利公正編

「さて、まずは伊藤同様に礼を申し上げよう。僕も君が開発した薬によって病の淵から帰還出来たのだよ」

「は、はあ……」

  ……誰だ? とはいえ伊藤博文を敬称使わずに呼んでいる以上は元老なのだろうが。

「そして、そんな噂の才子が小村の外交結果に対して「大勝利である」と祝していたという噂を聞いてね。……古城門、読ませて貰ったよ」

「あー……」

  しまった、あの「同人誌」、そげなことも書いていたな……。

「ただの逆張りというわけではないのであれば、論拠を聞きたくてね。無論、ただの逆張りだったとしても、あの「古城門」で大々的に小村の擁護を行って貰ったこと、忘れはしないが……」

「……それでは、小村様の外交戦果がなぜ「大勝利」と言いうるかを述べさせて頂きます。語るにはつたのうございますが、少しでも満足できるように頑張らせて頂きます」

 そして、山本少年が語り出した「(という名の史実)」は、如何にもなものであった……。



「以上が、現状を鑑みた現時点における「千里眼」でございます」

 山本が告げた「千里眼」による「演算結果」、まあつまりは「史実」なのだが、は元老にとっては非常にショックだった。無理からぬことだ、せっかくここまでかけて日露戦争を勝ち抜いたにもかかわらず、それがすべてパァになる、それどころか本朝が夷狄に蹂躙されるというのだ、正気では聞けぬ内容であった。だが、彼達は元老である、無論ながら正気で聞き続けていた。途中、山本が暗い顔で話し始めたこともあって、彼達は山本がふざけてそれを話しているわけではないことも、また察していた。

 ……そして、深刻そうな顔をしている山本に対して、それを聞き出した「元老」、つまりは由利公正は深く静かに、しかして穏やかに、山本の頭をなで始めた。

「はわっ!?」

  な、なに!? なんかなでられた?

「よく、今まで耐えていたね」

「は、はひっ!!」

「ああ、大丈夫だとも。君の見た「千里眼」の未来にならないように、我らは尽力することを約束しよう。さすがに、死後のことまでは保証できないが、生きている間は、必ず。……そうだ! 君、確か山本孝三とか言ったね。 高橋さんの推挙なら確実だろう。今はまだ難しいかもしれないが、一度国会議事堂に入ってみるかね?」

「えっ……」

  いくら俺が自閉症だからっつったって、彼の言わんとすることはさすがにわかる。将来的に、俺に代議士になれっていうんだろう。……だが。

「……ええ、難しいと思います。本朝は帝政国家ながら、同時に代議士は選挙によって選ぶと帝国憲法に書かれております、第一、このような得体も知れぬ坊主を推挙する選挙権者は多くはないでしょう」

「……うむ、期待しているよ」

「ははっ」

「おーい、山本くーん、どこにいるんだねー?」

「あ、高橋さん」

「それじゃ、時間切れかな。高橋大蔵卿、こちらです!」

「おお、そっちかね!」

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