第46話:元勲達の空騒ぎ? 伊藤博文編(後)
ドイツを追い詰める? なんで?
「え、えーと……。伊藤元老、私めはよく理解できないのですが、その必要性を聞かせてもらえますか?」
山本は、かなり戸惑った様子で伊藤に対して質問を質問で返す無礼すらも気に留めることをできず、質問の意味を聞き直した。と、いうのも、彼はドイツの敗北が回り回ってとんでもないカタストロフになることを識っているわけで、ドイツを追い詰める行為がどれだけ危険な采配かということを想定しており、ゆえに眼前の伊藤の発言を聞き直した。だが、伊藤は不思議そうな顔で山本に対して、重ねて問うた。なぜならば……。
「……言う必要があるかね?」
「策を考えるためには、一応動機も必要となりますので……」
「……そうか。噂の神童麒麟児と言えども、知らないことはあるようだね」
伊藤は、眼前の神童麒麟児にも知らないことがあることが面白く感じたのか、少し茶目っ気を出して山本が本当にその事実を知らないのか、聞いてみることにした。その、ゆさぶりとは……。
「は、はい」
「……先の明治三十七、八年戦役、黒幕がドイツだというのは知っているよね?」
「えっ」
……一応記述しておくが、それは間違いなく事実であった。黄禍論患者であるビルヘルム二世がロシアを唆したことによって生じた未曾有の国難である日露戦争は、独魯仏が仕込んだ謀略であり、結果として当てが外れた形になったが、その裏事情を元老達はきちんと把握しており、故のドイツ詰めであったのだが、山本は残念ながらそこまでの碩学者では、なかった。
「…………なるほど、確かにそれが知り得なければ謀略を考える必要性を感じ取れないのも無理はない、か。……で、だ。その事実を知った以上、君ならば思いつくはずだよね?」
山本がいかに神童麒麟児とはいえ、所詮は江戸時代を知らぬ明治生まれの少年であり、一応は曾孫が操縦していたものの、その曾孫は曾孫でアメリカ合衆国憎しの怨念が強すぎるあまりドイツを終生の味方であると完全に勘違いしており、その盟友と誤解している国家を追い詰める策など、端っから脳裏に存在しない状態であり、それを今現在一から構築する必要が存在した。
重ねて書くが、彼は世界を善き方向に修正するためにはアメリカ合衆国を撃滅することが一番の近道であると思い込んでおり、ゆえにアメリカ合衆国を滅亡させるための策は多種多様に思考実験を繰り返しており、その中でも一番手っ取り早いのが大東亜戦争で大日本帝国が勝利を収めることであったと確信していたのだが、ゆえにその想定ではヨーロッパ方面の盟友国がドイツであると錯覚しており、伊藤の発言は完全に想定外にして予想の範疇外であり、つまりは一から
「……今すぐには、少々難しいですが……」
そして山本少年はドイツ詰めに対して現状すぐに策を思いつけず、即答を行えという問いに対しては匙を投げることにした。とはいえ、ここからが山本少年の恐ろしいところであったのは、元老達にも流石に気づく由はなく。
「まあ、そりゃそうだろうね。それじゃ、朝鮮半島を飲み込むべしという世論に対しての備えと一緒に、考えておいてくれ」
「は、はい」
……自信ねえなあ……。
「さて、次は僕の番だな」
そして、次に山本少年の知恵を借りようとしているのは……。
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