第45話:元勲達の空騒ぎ? 伊藤博文編(前)

「質問に答えるだけであれば、構いませんが……」

  ……すっごい、嫌な予感がする。というかまあ、なんとなく見当はつくけども、それに対する答えがあるかどうか……。

「そうか。いやなに、噂の才子の意見として聞ければ充分だとも。……この前、妙な韓国人に銃撃を食らったのだが、幸いにして生還している。なんとかして併合騒ぎを鎮静したいのだが、どうしようか」

「…………」

  案の定か……。

 伊藤は、朝鮮半島の経営について慎重派だった。と、いうのも、伊藤は朝鮮半島を取り込めという世論に対して、それをどうやって躱すか考えていたという記録も存在しており、安重根ははっきり言って射撃する相手を完全に間違えていたといえる。そして、伊藤は山本少年に対して、ただでさえ「朝鮮半島を飲み込むべし」という世論が自身への襲撃によって加速しつつある現状に対して、何か策がないかと訊ねたのだ。

「策は、ないものだろうか。それとも、急には思いつかないか」

「今すぐならば、一つだけ。時間があるならば、考えておきます」

 そして、山本少年にも策は、一応存在した。その、内容とは。

「おお! そうか! ……して、どんな策だ」

「単純な話です、「千年に亘って支那の属州である最貧国如きが偉大なる本朝の一部になろうなどおこがましい」という言説を流布したらよろしいかと」

「なっ……!!」

 それは、事実であった。だが、あまりにも事実に過ぎた。少なくとも、この当時におけるな教養を受けた人間であればそこまでの発言をすることはなく、特に大陸派の人間にとってはかなり無礼な発言であった。国学派ですらも、「中朝事実」を書いたとは言え山本ほど過激な思考をすることはなかった。とはいえ、山本もただ単に朝鮮を無礼ていたわけではなかった。まあもっとも彼の発言を見る限り脱亜入欧というよりは、単に支那朝鮮の類いを嫌っていただけの可能性が高かったが。

「……他には、ないのかね」

 そして、伊藤は山本に対して、他の策がないか聞いた。無理もあるまい、一応は歴史的経緯として、それなりに相手をした相手であり、さらに現状は伊藤の思考内では連携すべき団体と考えている相手にそこまでの侮辱は行うべきでは無かった。だが。

「ええ、今すぐに思いつく策としては、さきほど申し上げた通りのものしかございません。結果として朝鮮併合を阻止できるならよろしいのでは?」

 ……山本は、いけしゃあしゃあと言ってのけた。何せ、彼にとって朝鮮半島とはウラニウムの産地以外の意味が無く、脳裏においては現地住民を酷使してウラニウムを発掘し、あとは野となれ山となれという経営方針を立てていたのだ、いかに朝鮮半島に好意以外のものを持っていたとはいえ、あまりにもその発言や思考はあけすけに過ぎた。

「……わかった。それでは時間を与えるから、別の策を考えておいてくれ。さきほどの策は、最後の手段としてとっておく」

 そして、伊藤は山本に対して、宿題としてそれを依頼した。いかに、朝鮮半島を取り込むことを避けたいとはいえ、山本の発言ははっきり言って結果以外の副作用が多すぎた。

「わかりました。そして、他にも悩み事があるようですが……」

 そして、山本は伊藤の悩み事をさらに聞き出すことにした。そして、山本はその直後に伊藤の発言に対して度肝を抜かれることとなる……。

「……鋭いな。では、もう一つ。……ドイツを追い詰めたいのだが、どうすればいい?」

「……はい?」

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