第43話:Untitled-Case(後)
「……僕からは、ちょっと了承しかねる、かなあ」
「……そうですか」
「とはいえ、目の前でそれが行われるのも看過できない。……君の正体が仮に世紀の大怨霊だとして、そこまでの怨念を貯めるほどの目に大日本帝国が遭ったというのかい?」
「はい。私からも言いたくは無いのですが、そういうことです」
「…………」
ややあって。
「……今日の所は、上がって良いよ。正直、今日の発言を僕も整理する必要があるし、それにあまりにも衝撃的すぎる」
……高橋さんは、結局その惨劇を聞こうとはしなかった。まあ、此方が言うのをためらったのもあるのだが、高橋さん自身も、此方に負担を掛けまいという心遣いによるものだろうと思われる。
そして、一応今日の所は仕事も終了、という形になった。初日である上に、俺が必要なのはあくまでも知嚢面であって、挨拶回りとかに必要な雑小姓系秘書というわけではない。それに……。
「…………」
それに、俺自身も、あまり惨劇を語ったりするのは得意ではない。そして、辛い思い出ならば思い出さない方が良いに決まっている。無論、報復する機会がある場合は別だ、自身を鼓舞し、敵の悪行を並べる必要があるからだ。とはいえ、今は、まだ。
「……まってろ、アメリカ合衆国」
必ず、殺してやる。
「…………」
……彼は一体、何なんだ?
是清は、山本を帰した後も、否、帰した後こそ悩み始めていた。無理からぬことだ、眼前の「神童麒麟児」の正体を知ったこともだが、彼に政権を任せてしまったが最後、恐らく怨念に取り憑かれた彼は、必ず対米戦を選択するだろうからだ。
しかし、その才覚を使わないで野に放つ程大日本帝国は裕福ではない。ゆえに、その才覚を絞っておく必要が存在するし、恐らく彼の才覚は大日本帝国の富国強兵に大いに役立ってくれるのは確定である。抗生物質なる発明一つとっても、既に大日本帝国から輸出する薬品としては非常に効果的に外貨を稼げている。何せ、大日本帝国に、否、本朝に無数に存在する青カビが金銭に、外貨に、そして貴重な資源に化けるのである、使わない手は無かった。そして、是清はある決意を固めることとした。
「……僕が、手綱を締めるしかないか」
無理なことを承知で、高橋是清は山本孝三に手綱を付けることを決意した。何せ、相手は少年の皮を被った世紀の大怨霊らしい。そして、怨霊とは御霊儀式によって、つまりは怨念を晴らさせることによって初めて
「……ひとまず、彼に対米戦突入の条件を聞いておくか」
彼の「下策」の内容が正しければ、阻止して、尚且つ怨霊を昇天させることができるかもしれん。
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