第36話:誕生会(仮題)/後;素組みでゴメン!
「まあ、そういうわけで……、長い挨拶はしたくないし、一言だけ。英気を養い、この宴会で士気を上げよ!」
『坊ちゃん万歳!』
「……さて、そういうわけで……。俺は子供だから酒ではないが、乾杯!」
『乾杯!』
明治42年12月24日、山本孝三の14度目の誕生日の日に、関東新邸において細やかとは到底言い難いが、細やかな宴会が開かれた。使用人26名、他、出入りの大工なども巻き込んだ、内々の宴会であった。一応、他家の出入りが無い、という意味では細やかといえるのだが、何せ関東新邸は非常に広い。ゆえに、大規模な宴会になったわけで……。
「坊ちゃん、この度はおめでとうございます」
「おう、酔い潰れない程度にははしゃげよ。こんな宴会、今後あるかどうかわからんしな」
「ははは、そうさせて貰いますよ」
「おう。……折角だし、花火でも打ち上げるか?」
「そうですな、そう仰ると思っておりました」
「……用意いいな」
「ははっ、我等の坊ちゃんが晴れの舞台に上がるわけですから、可能なものは何でも用意しておりますとも!」
「ははは、そいつぁいい。……一応、火薬だからな。火事にはならんように」
「畏まりましたぁ!」
冬に上がる花火にしては、豪勢なものが打ち上がる。とはいえ、外郭を大きく取っている中の中心部から上がったものであり、さらに言えばそもそも周囲からあまり見えないレベルでしかない。後に「坊ちゃん」が振り返って、「……うちの使用人の練度は、やはり相当高いわ」と気の抜けた方言で語る程度には、その「宴会」の根回しが、法律上合法である限りのことをするためであったことに後に大いにおどろいたという。
平和な時期だからこそできた宴会であったが、同時にそれは山本孝三が政府顧問として出立するための、最後のプライベートな宴会と言えたかも知れない。……まあ、後にたびたび行うわけだが、「坊ちゃん」時代としては、最初で最後である、と本人の回顧録には明記してあった。
そして、あっという間に時は過ぎ、翌年1月4日火曜日、つまりは仕事始めの時期がやってきた……。
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