第35話:誕生会(仮題)/前;素組みでゴメン!
明治42年12月24日、山本孝三にとって都合14度目の誕生日が訪れた。また、まだ日本に根付いてはいないが時期としては12月24日はクリスマスイブというべき日取りであり、数は少ないとはいえ切支丹らが教会に集合していた。だが、当の本人はといえば……。
「坊ちゃん、いかがなさいましたか」
「来年から、政治顧問としての仕事があるんだろ? ……不安なんだよ、そんな大役、俺ごときが務まるとは思えん」
「……坊ちゃんにしては、弱気ですな」
「悪いか、俺だって弱音を吐きたい時くらいあるさ」
「……なれば、ひとまず本日から仕事始めまでは忘れてみるのはいかがでしょうか」
「あぁ?」
「坊ちゃん」こと孝三が話しかけてきた使用人に連れられて外に出てみたら、なぜか工事の手が止まっていた。大工や左官などから出入りの丁稚に至るまで、何かを期待した目で孝三を見ている。なにが始まるのか、一切理解していない者がいた。……孝三である。
「……おい」
「はっ、なんでござりましょう!」
「……今から、なんかあんのか?」
「……は、ははっ。本日は、12月24日。丁度14年前に坊ちゃんが産声を上げた日でございます」
「……あー、そういやそうだっけ……」
……そうだったそうだった、俺は夏が誕生日のつもりでいたが、ひいじいさんは冬が誕生日だったか。てーか、クリスマスイブが誕生日って、オイ。
「……坊ちゃんが忘れていかがなさいますか」
「……で、集まったわけってのは、なんだ。俺の誕生日でも祝ってくれるのか?」
「……坊ちゃん」
「なんだよ」
「主賓はがっつくものではございませぬ」
「……あー、俺から言わない方がよかったのか?」
「……そういうことでございます。とはいえ、安心致しましたぞ」
「あぁ?」
「坊ちゃんは、どこかしら浮世離れしている上に、年頃にしては妙に達観したところがございます。しかし、子供らしい一面があったようで私ほっといたしました」
「……結構子供っぽいと思うんだけどな、俺」
「ははは、なにをおっしゃいますやら。……然らば、ちょっとした余興ではございますが、これより坊ちゃんの誕生会を始めようと思います。音頭を」
「えー……」
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