第26話:自転車操業? いいえ、車懸かりの陣です。
「坊ちゃん、今度はなにをするお積もりでございますか」
「古城門計画、今少し時期を早めるぞ。原稿の不足は当方で補う」
「……は、と、仰いますと……」
「ああ、前にも言ったとおり、作家という存在は後世になるにつれ、非常に高度な名声を以て響くこととなる。利益が出ると解っている先物取引に挑まぬのは臆病者の判断よ」
「はあ……、しかし、宜しいので?」
「いいか、俺自身が筆者になったら原稿料を払うページ数が少なくて済むし、印税を払う人間と受け取る人間が同じである以上、合法的に資金は浮いてくる。いいか、古城門計画の前提はあくまでも小学館と朝日新聞の撃滅だ。だったら、連中が動き出す前の封殺も悪くはあるまい」
「……ははっ」
明治42年11月3日のことである。「祝日刊行」と称された雑誌、通称「古城門シリーズ」は赤穂工業、即ち山本少年が単独で取り仕切る会社において発刊された。その第一号に掲載されたのは、なんと……。
「坊っちゃん、斯様な知識をどこから……」
「だいぶ前のアインシュタインの論文あったろ。あれを日本語訳したらこうなるってこと」
「は、しかしそれではアインシュタイン博士の著作権を侵害することになるのでは……」
「勘違いするな、やっこさんがアメリカ合衆国に亡命した場合、この兵器が日本に落ちることになる。だったら先手を打って此方にも手があることをブラフとして発表しておく必要があるのだ。
第一……」
「第一?」
「実際の理論に関しては、俺は知らん。俺はあくまでも、エネルギーと質量が等価であるという研究成果を下に、日本に手を出したらその国家は滅亡するという警鐘を鳴らしたいだけだ」
「はあ……」
……なんと、原子爆弾の作り方であった。前世の書物の、どこからそれを仕入れたのかは定かでは無いが、彼は朝鮮半島北部にその
とはいえ、丸暗記の成果に過ぎない以上、所々穴がある上にあくまでも彼が記述したそれは、「シラーズの手紙」の一部に過ぎない。以後、大日本帝国が世界で唯一の宇宙に領地を持ち、また世界で唯一の対消滅兵器保有国になるまでには、まだまだ難関が待ち受けていた……。
……そして、最後に書かれた編集後記がまたとんでもないレベルの未来警告で、話題となった。以下に全文を引用しよう。
「フランクリン・ルーズベルトならびにアインシュタインに告ぐ、本警告を以てしても尚本朝を攻撃するつもりならば、それは自身ならびに欧米列強すべての破滅を意味すると思え。
警告しても尚、本朝攻撃計画を続けるつもりならば、然るべき天誅を下す」
以後、「ルーズベルト悪玉論」として紹介される連載記事の初号であったが、あくまでそれは未来の話であると同時にこの世界では辿らぬ未来であるのだ、ゆえに未来系仮想戦記の一種として処理されることとなり、さらに言えば山本少年はその段階からでも勝つ見込みを記述していたのだが、この時点で対米戦を見据えていた、ただ一人の人物として後に話題となる文言であった。
「必ず、貴様の好き勝手にはさせんぞ、ルーズベルト」
「……坊ちゃん、ルーズベルト大統領はポーツマス条約の立役者で御座いましょうに……」
「……苗字が同じだけの別人がいるんだ。同じ山田だっていろいろ違う人物はいるだろう。俺が殺すべきは、「フランクリン・ディラノ・ルーズベルト」、セオドア氏とは何の関係も無いルーズベルトだ。なんだったら、スパイを潜り込ませて暗殺させたいくらいには、奴を殺したい」
「はあ……」
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