第24話:見よやドックに集まりし、わが軍艦の壮大を

「あれが、横須賀か」

「はい、立派な軍艦ですなあ」

「……早く、国産で作りたいものだな」

「……坊ちゃん」

  確かもうドレッドノートは出来ていたか? ……ちっ、詳しい年号までは覚えていないが、もしまだだったら此方で一風を起こせたものを。惜しい魚を逃したかもしれん。とはいえ曾祖父に生まれてしまったのはもうしょうが無いことだ。むしろ高祖父であった場合、下手に暴走したら家格の上昇率が上がりすぎておれが生まれなくなる。やむを得まい。それはそうと……。

「爺、伊藤氏は生きているというのは本当か」

「……坊ちゃん」

「なんだ」

「まだ、存じ上げておらぬのですか」

「あ?」

「坊ちゃんの発明品が、伊藤翁を救ったのですぞ!?」

「……えっ」

 ……実際のところ、山本孝三が発案した防弾着が即座に伊藤博文の元に届けられたと書けば若干の語弊はあるのだが、実際のところは概ねそれで間違っておらず、即ち発明品で元老の命を救った形になった山本孝三はその名をさらに上げ始めた。一説には彼が代議士ですらないにも関わらず三十路少々で今なお歴代最年少の大臣となった(後に、勅選議員)のは元老のお気に入りとなったからではないかとも囁かれたが、そもそも勅選議員の理由が「多数の発明品による国威高揚に貢献したため」であったが故、当たり前と言えば当たり前であった。

「……発明品つったってなあ……」

  どの発明品が暗殺事件を未遂にしたのか、まるで見当が付かん。十中七八で防弾チョッキだとは思うんだが、とはいえケブラー繊維は初期型に過ぎんはずだしなあ……。

「坊ちゃんはお疲れの様子、ひとまず龍野へ帰りましょう」

「そだな、そうしよう」

  まあ、いい。まさか付属案として提出した絹式防弾繊維が作られているわけでもあるまいし、ケブラー繊維が作られたとしても権利関係はまだ握ってるし、ええやろ。

 ……山本孝三は気づいていないが、実は伊藤博文を暗殺騒動から救ったのは他の研究員が山本孝三が三鷹の研究所に提出した研究ノートの一部……すなわち外部に業務を委託しても問題ないと判断した一種の廉級発明品の中身を解析した結果導き出された結果突貫工事で試作品を作成し元老の暗殺対策として秘密裏に配布されていたシャツにその繊維が仕込まれていた。

 実は、山本孝三が気づかないうちに彼もその繊維が編まれたシャツを着込まされており、「なんか肌触り悪くね?」と彼が疑問を呈した際に説明を受け、驚愕したことからも判る通り、この当時の大日本帝国は決して技術的後進国ではあり得なかった。

 土地柄とそこまでの民需工場が不足していたから量産できなかっただけであり、手作業の、いわゆる手工業においてはまだまだ江戸時代からの現役――その多くはベテラン熟練(経験豊富)にしてホンチョ達人(技量抜群)といえた――職人がいたこともあって数を揃えるよりも効果を先行させた場合、オーパーツじみた工芸品を産出することも可能であった。

 そして、山本孝三が龍野に帰還した際に、その「暴走」はもはや制御不能なところにまで躍進を始めるのだが、居眠りをし始める彼がそれを知る由は、なかった。

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