第21話:なんか、戦国の長嶋巨人軍っぽい名前の薬だったと思う

  えー(汗

 ……孝三の眼前にいる美少女、せいの「頼み」ごととは次の如くであった。

「……嫡男の結婚先を選ばせてくれっつったってなぁ……」

「だめ、でしょうか?」

「……先約があるんだが……」

  参ったな、宛先がどこかにもよるが、祖父じい様と祖母ばあ様を結びつけなければ俺ができる確率がぐんと下がる。父親おやじ母親おふくろを結び合わせて、その後子供を作るところまで見届けなければ、無事に死ねれんし。

「そう、なんですか……」

「ただ、せいの頼みを無碍にするのも、俺は好きじゃ無い。……念のため聞いておく、どこだ」

  もし同じだったら、問題はないのだが。

「赤穂の児島家は、今のうちに押さえていた方がいいんじゃないかな、って思うんです」

「……赤穂の児島、か」

  ……児島?……赤穂で児島ってことは……。なんだ、そこも一応大叔父様おっちゃんがいるし、まあそれならば……。

「はい。……ダメ、でしょうか?」

「……嫡男じゃなきゃダメか?」

  ……とはいえ、嫡男の、というか爺様の嫁ぎ先と被ると拙い。大叔父の名まで想定はしているが、そもそも伊東製薬とは固い仲にしておかねば、今後の発明計画が狂う。

「と、仰いますと……」

「実はな、実子の名前と、結婚先と、生年月日、全て計算には入れてある。とはいえ、こんなに結婚が早くなるとは思わなかったから、正直赤穂の塩田を囲い込む行為も、捨てがたいのは俺も考えていた」

  ……正直、曾祖父いまのおれの本来の婚姻は大正時代に入ってからのはずだ、明治期になどとはさすがに想定外だし、そもそも曾祖父いまのおれってまだ15やそこらだろ? 精通も声変わりもまだみたいだし、曾祖母眼前の美少女も初潮がまだだと聞く。どう考えても早すぎるだろう。……とはいえ、赤穂の児島は大叔父の養子先なんだから大きく修正しなくても良いのは伝えておくか。

「まあ」

「一応、嫡男の名は恭一、と考えている。ただ、もしその前に嫡男が生まれた場合、児島家との婚姻も考えても良い」

  ……と、いうわけで、だ。明治に出会ったのは想定外だが、それは別に構わんか。……ん? 明治? ……明治ってことは、まだ明治天皇生きてんだよな。……拙い!

「まあ! ……それならば、励まねばなりませんね、旦那様」

「……せい、スマンが急用ができた」

「……と、仰いますと?」

「今上帝がご病気なのは知っているよな?」

  確か明治天皇は糖尿病の、その中でも恐らく二型だろう。だったら、あの薬を投与できればひょっとしたら治せるんじゃないか? いや、治せなくてもあるいは延命措置ができただけでも世界は動くかもしれん。大正天皇がダメというわけではないが、第一次世界大戦の日付も近かろう。それならば、あるいは。

「はい、何でもひどく疲労感の出るご病気なのだとか」

「……今上帝のご病気、治せる薬を閃いたかもしれん」

  ……まあ尤も、糖尿病を本質から治すには生活習慣を変えて頂くしか無いのだが、それでも延命措置ができるのならば世界史が変わるかもしれん。第一、大正天皇も明治天皇の嫡男で昭和天皇の御屋形なのだから暗愚なはずが無いのだ、遠眼鏡事件なども、恐らく故あっての芝居であろう。なれば、その芝居をする必要が無い環境へ持って行く!

「まあ!」

「と、いうわけで、暫く研究室に籠もる。もし、子供が欲しゅうなった場合は、呼んでも構わん。もしこれを発明できて、今上帝のご病気が快癒なさった場合、あるいはあるいはかもしれん」

「……それは、そうでしょうね。構いません、私は待てますから」

「初夜からこの出だしなのはすまないが、そういうことだ。……聞き耳は決して行儀が良いとは言えませぬぞ、子爵様」

  全く、恐らくおっぱじめるまで居座り続けるお積もりなのだろうが、ある意味丁度良い。立ってる者は親でも使え、なんて言うしな。存分に活用させて貰おう。

「……なんじゃ、わかっておったのか」

「あら」

「と、いうわけでございます。幸いにして、化学式は脳裏に」

「……なんともやれやれ、せいも災難じゃのう。よかろ、陛下のご病気を解決できたとあらば、恐らく神童麒麟児の名声はなお高くなろう。受勲は確実であろうが、あるいは授爵をされるかも知れぬ。儂からよく言っておくでな、速やかに行って参れ」

「有り難き幸せ、子爵様の御推挙は穢しませぬ」

「おう」

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